明日できること今日はせず 

身辺雑記より:田中角栄と大門を歩く

2010・12/20

昨日に続きパソコンの前で検索。思った以上に難航している。某建造物をからませねばならず、かといって建造物にちなみ、アダージョの特集に相応しい人物がいないから困るのである。該当する人物はあったがすでに扱ってしまっている。私からも2、3提案してみたが、もう一つのようである。都心の建造物ゆえ、近辺にちなんだ人物はいるのだが、画を作る側とすると某建造物を入れるのであれば、その時代に相応しい人物にしてほしいということがある。

※東京タワー


12/31

アダージョを続けているここ4年の間は、個展の類はできなかった。インターネットに縁がなく、都営地下鉄に乗らない人にとって私は引退状態なのではないか。しかしアダージョで鍛えたせいで、制作時間がいくらか短縮されている。来年辺りは何かやれないだろうか。やるとしたらまず○○○だが、展示させてもらえる場所があるだろうか。そんなことは数点完成させてから考えることしよう。


2011・1/7

アダージョ用のK(苗字でなく名前)。ようやく感じが出てきた。資料には笑顔の写真が多いが、はたして笑わせてよいものであろうか。私はイメージが限定されてしまうので表情は作らない。特に立体の場合は、ライティングの加減で表情をアブリ出すことが可能ということもある。しかしそういうことではなく、アダージョの場合は過去の人を現在の風景に立たせる、というかなり無茶なことをしなければならない。人物によっては生前からある風景が残っていて、違和感なく立たせられることもある。しかしKの場合はそうもいかない。となると、あきらかな現在の東京に立たせることになる。 今の東京に立たせて、はたしてKは笑うだろうか。誰もそこまで気にしないよ、とはよくいわれることだが、それをいっちゃお終いである。本文ではKの何処に焦点をあてて書かれるか判らないし、笑わせたとしても微笑ませる程度にしておくほうが良いであろう。


1/10

朝、ワイドショーで制作中のKを特集していた。コメンテーターの一人が、「今の日本を見たら、こんなはずじゃなかった、っていうかもしれませんね」。だから私も笑顔にしていいのかどうか、迷う訳なのである


1/13

制作中のKは例によって、何故ここにいるんだろう、ということになりそうである。特に今回は背景にある建造物を入れる、というところから始まっており、そこから導き出された人選である。Kがただ立っていたって構わないだろうが、やはり工夫は必用であろう。そこでKの渾名にもなり、象徴的な乗り物を配したいと考えた。たまに見かけるような気がするが、いざ撮影しようと思うと、どこにいけばあるのか判らない。しかもKの時代の古い機種にこだわるとなおさらである。そこでK本の常連、大手ゼネコンのMさんに問い合わせてみた。Mさんに訊いて見つからないようでは打つ手はどこにもないだろう。 今日中に見つかるかもしれない、というのでK本にいってみた。問題はKの時代の機種は排ガス規制により、現在可動している物はない、ということであった。一般人が機種の違いを判別できるはずはないので、そこまでこだわることもないような気はする。しかし判る専門家も多いはずで、これはあの懐かしい機種だ、と気付いているところを私は想像してしまうのである。どこかに展示している物はあるだろうが、ピカピカよりも現役感が欲しい。まして屋内展示では、シチュエーションが外なので撮影には適さない。Mさんによると川崎に、屋外に放置している物があるかも、ということで先方の連絡を待つことにした。Mさんは明日からタイに行くというので、返事は帰ってからということに。

※ブルドーザー 当初当時のブルドーザー1台を背景に、と考えていた。


1/14

アダージョ用のKだが、思いの他難航した。この時期に頭部が完成していないというのは余程のことである。今だからいえるのだが、嘘だろ!?というくらい形がつかめない。毎日作り続けているのにいっこうに進展しないのである。粘土の消費が減り、私も少々腕が上がったなどと、自惚れた罰が当たったのかも、と本気で考え焦り初めていた。 火曜日に、友人のTさんと、そのころには頭部が出来ているはずなので、久しぶりに飲みましょうと約束していたのだが、それどころではなくなっていた。そのTさんと、最近起こったMに関しての偶然をメールでやりとりしていて、私の気持ちがMに向かっているせいで、そういうことが起こるのだろう、というようなことをいわれて気がついた。Kを作りながら、刀を抜いては眺めたりしているのがいけなかった。(刀でMといえば三島由紀夫しかいないわけだが)そう思ったのが昨日で、案の定本日、夜の7時前にKの頭部が完成した。頭が三島にいってしまっていて、時間ばかりかけてもKが完成するわけがなかった。何で出来ないんだ、と不思議がり焦っていた私が間抜けである。そんな有様でここ4日、風呂にも入っていなかったので、ほっとしてひとっぷろ浴びようと思った


1/15

地下鉄で現場に到着。今回は営業サイドからの、某建造物を背景に入れてという要望で、そこからすべてが始まっている。勿論、特集人物のKとも縁があるわけで本文で触れるだろうが、それほど知られた話ではなく、人物との縁で、と大きく入れるのは難しいような気がする。入っていれば遠景でも良い、ということなのだが、ではどこから撮れば良いか、というとこれは1日歩き回るくらいじゃ無理であろう。こうなると人物と背景の間に挟む予定の車体を大きく配することにし、それにあわせて、最後に建造物を配置するのが得策と思われた。となると、車体の前に立たせるのか乗せるのか、車体を撮影してから、それに合わせた人物のポーズを作らなければならない。タイに行っている某大手ゼネコンのMさんからの連絡待ちということになる。排ガス規制ですでに廃車になっている機種が、なんとか見つかることを祈ろう。 

※この段階では、角栄をブルドーザーに乗せることも考えていた。


1/17

未だにMさんからの連絡を待っている状態だが、件の車体が撮れない場合のことも考えておくことにする。排ガス規制で使えなくなった車体など、とっくにスクラップになっている可能性が高い。このKは、今までアダージョで手がけた人物で、もっとも亡くなってから年月が経っておらず、力道山がリキさん、と呼ばれたようにKさん、と愛称で呼ばれることもあった人物で- Kにはトレードマークといっていいような持ち物がある。撮影用だしわざわざ買わずに済めば、とK本の次に寄ったT屋でHさんに訊いてみると「あるよ」。考えてみるとT屋では、森鴎外の軍服の飾緒をカミさんに三つ編みにしてもらったし(編む間、たまたまカウンターにいた酔っ払いが片方を持たされていた)ついでにサーベル用に菜箸を貰ったし、三島の時は、いつも半袖のHさんに腕の筋肉を見せてもらった。さらに志ん生ではK本で撮影したし、同じマンションのYさんには円谷英二で後姿で登場してもらった。なるべくわざわざ電車にも乗らず、近所で済ませたい私である。 T屋のカミさんには、たとえば小泉八雲あたりで幽霊をやってもらったらさぞかし、と思っているのだが、私の説得の仕方が悪いのか今のところ実現していない。“お化けじゃなくて幽霊だよ?”といっているのだが。

※カクさん

※扇子


1/24

咳が出始めると集中ができない。一度直りかけた時に、明け方まで飲んで、店内の煙草の煙で振り出しに戻ってしまった。うがい薬もだんだん原液に近く濃くしてみたが一向に効かない。炎症でも起こしているなら消毒が良かろう、とウィスキーでうがいをしてみたが、バチが当たりそうで、けっきょく飲むことにした。 本日はアダージョの打ち合わせがあったがパスした。私が係わるのは表紙だけで、紙面のレイアウト、構成などタッチしないので、私はいてもしょうがなく、その後のアルコール入りの話し合いは、煙草の煙でまた酷くなっても困る。明日は横浜まで撮影に行く予定である。Kの背景に使えないかと考えた車両だが、やはり排ガス規制ですでに処分されてしまったようである。よっKての時代の車両というわけには行かないが、大手ゼネコンのMさんに紹介してもらった場所には、大量に置いてあるらしい。現場に行って見ないと判らないが、当初一車両だけを考えていたが、過剰に配するのも面白いかもしれない。


1/25

11時過ぎに撮影地に向け出発。電車内で咳が止まらなくなってもいけないので、のど飴、スプレイ、飲み薬など持っていく。 横浜市神奈川区某所。東京湾に面した出島のようになった場所のようだが、コンビニの店員に聞いても、その住所自体を知らないし、この辺りに海などないという。そんな馬鹿な、とタクシーを拾うと、運転手がそういえば、そんな所が、という状態で、めったにタクシーがいくこともないらしい。 広々としたところを走り事務所に挨拶に行くと、すでにMさんからの連絡が入っていて、何がどうと、説明する必要もなく、ヘルメットを渡される。車両がある場所にいってみると、大変な量の車体が置いてありパットン戦車軍団の如し。やはり当初考えた一台だけより、せっかくなのでもっと入れることにする。カッコのいい車体に目を付け撮影していると、所長らしき人が通りかかり、動かしてくれるという。さきほどから撮影していた車体は、社外の物で、できればこちらを、ということらしい。逆光だったので、向きを変えてもらった。その後二時間ほど敷地内を歩き回り撮影終了。タクシーを呼ぶが、出島内の詳細な地図がないということで、しばらく待つ。あげく運転手が復唱した駅名とは違う駅で降ろされるが、撮影が無事すんだので良しとする。 今回は背景に某建造物を入れることになっている。風景を二回撮ることにななり、今日の撮影は中景ということになる。建造物の遠景は、テスト撮影時曇天であったし、今日の撮影で方針が変わったので、再度撮影することになる。

※輸出用の中古の重機が多数屋外に置いてある。


1/30

背景の撮影に出かける。前回はロケハンということでザッと歩いたが、某建造物の高さがあるので、特集駅周辺から眺めると近くから見上げることになり、どうしても余計な物が入ってしまう。隣の駅くらい離れないと難しいかもしれない。 昨日撮影した車両は、当初一台だけの予定であったが、あまり見事な数だったので、過剰に配置することにした。前景に主役の人物、中景に車両、遠景に某建造物、ということになるわけだが、今回は営業の方から、この建造物を入れて、という要望から始まっている。ならばいっそのこと、中景の車両群の上に、建造物が頭を出しているだけ、というのはどうか、と編集長に伺いを立てると、インパクト重視でそれで良いとのこと。つまり本来特集場所となる背景は某建造物だけで、手前のKを象徴させる車両群の中景が、多くの面積を取ることになり、そこは実際は神奈川県の某所である。構図としては戦車軍団を前に閲兵するパットンかロンメル将軍の如し、といったところであろうか。

※ポイントとなるブルドーザーに当たる光線の角度に合わせて東京タワーを撮りなおす。


2/1

入稿は明日でも間に合うということであったが、まだ陽が出ているので、例によって屋上で主役の撮影。今回は明るい感じに仕上げたい。さっそく合成に入る。Kにはトレードマークといって良い物を持たせるのだが、角度的に、せっかく作ったネクタイあたりが隠れてしまう。作った所は見せたいものだが仕方がない。小さくしたりもしてみたが諦めた。 中景に配した車両群は、ただ置いてあるだけなのだが、砂埃を立て、排気口から煙を出して、稼働中のような雰囲気を出してみた。静かに停車中の車両を前にでは、Kの取るポーズが空しくなるだろう。 仕上げが終わったのが11時前後だったろうか、T屋へこれから行くとメールをしてデザイナーのところへデータを送るが、送信できていなかったら、明日やり直せばよいと送信完了を待たず、パソコンを点けっぱなしで出かける。 さっそく熱燗で。  私が帰ろうとすると気配を察したHさん、残り少ない吟醸酒の一升瓶を飲んでと差し出す。私も野暮天になりたくないと思ったが、どうもHさん二人だけになりたくないらしい。吟醸酒を空けると次が出てきた。彼女が帰らない限り、私はタダ酒が飲み続けられるパターンのようである。Hさんを無視して私とだけ話す女性客。いたたまれないシチュエーションであるが、アダージョは完成しているし、本来飲み心地の良くないタダ酒も甘露の如く喉を通る。 無事に役割を果たし帰宅すると、データは無事に送られ、すでにデザインも上がっていた。『今回のロゴは黄色か』と思ったのまでは覚えている。


2/9

夕方アダージョの編集長といつもの木場デイナイス東京の1Fで会い、テスト刷りのチェック。問題なし。そのままK本へ。今号は中景に配した車両群がポイントなのだが、その場所を紹介いただいた大手ゼネコンのMさんに結果を報告。中景というより背景すべてといってもよい。この人物がなんでここに立っているのだ、という違和感にいたる前に本文に入ってもらおうということに毎回頭を悩ませてきた。本文を読めば、特集された意味は判るが、この人といえばここ。という場所ばかりでないところが都営地下鉄駅周辺を背景にしなければならない難しさである。と私は何回ぼやいたことであろう。 

2/25 『田中角栄と大門を歩く』 最終25号 制作ノート

今回は諸々の事情で東京タワーが背景に入ることが条件である。そこから人選、特集場所が決まっていった。ところが東京タワー と縁がある人物というと、案外決定まで時間がかかった。22号の円谷英二は、本来東京タワー周辺が特集になった場合に、と考えたアイディアであった。最終号となる今号は、あまり地味でも具合が悪い。そこで東京タワー建設決定に係わったという田中角 栄に決まった。 想えばアダージョの表紙で毎号頭を悩ませたのは、名所とはいえない都営地下鉄駅周辺の風景に、いかに人物を配するか、ということに尽きる。今号も大門に角栄をただ立たせても、違和感だけが気になるだろう。そこで列島改造と“コンピ ューター付きブルドーザー”のイメージで、そのまんまブルドーザーを配することにした。中古の重機が置かれているという神奈川県の某所に撮影にでかけた。残念ながら排ガス規制により、角栄時代のブルドーザーはすでになかったが、あまりの台数に、当 初一台だけのつもりのブルドーザーを、ブルドーザー群として配することにした。暑がりの角栄には扇子を持たせることにして、実物を合成したのだが、せっかく作ったネクタイ周辺が隠れてしまった。角度や大きさ変えても無理であった。入稿寸前、角栄の手相が百握り、ますかけなどという、横に一本だけの天下を取るといわれている手相だと知り、なんとか修正。入稿後、着けるつもりの議員バッチを忘れていたのに気付く。すでに遅いがチェックしたら、ちょうどその辺りも扇子に隠れていた。 最終号は派 手に行きたい。青空を強調し、角栄お得意のポーズ。そうなるとブルドーザーが静かに置かれていては愛想がない。排気口から煙を出し、キャタピラには土埃を立てた。 結局ブルドーザーだらけで、肝心の大門は何処へいったか、東京タワーが取って付けた ように頭を出すという結果になった。編集長に伺いを立てると、インパクト重視で、とのこと。想えば、やりすぎることが多いと自覚している私は、この4年間、この言葉に随分助けられたものである。