明日できること今日はせず 

身辺雑記より:松本清張と日比谷を歩く


2009・2/14

近所の蕎麦屋で蕎麦焼酎の蕎麦湯割りを飲みながら、次に制作するアダージョ用の人物の、亡くなった当時に出た雑誌の追悼号を読む。人物の生前のエピソード、功績などが網羅されていて、とりあえず概要をつかむには最適なのである。作家の場合は著作を読むのはもちろんだが、少しでも人となりを知り、写っていない部分をつかもうとするわけである。私は時に写真に残されていない、誰も見たことのない角度で撮るので、本人に似てないといわれることもあるわけだが、残された写真は撮影者のものだから、誰でも知っているそのまま作っても面白くないのである。 


2009・3/13

アダージョ次号用の人物の頭部が完成する。この人物は、作る前から髪を何筋か風で顔にまとわりつかせ、ネクタイもなびかせることだけ決めていた。先日、特集場所のロケハンをして、構図もあるていど考えたのだが、問題は風向きである。浮かんでいた画の髪とネクタイのなびいている方向が、背景の構図と向きが合わない。思い付いたのは、作り始める前だし、髪が何筋かと、ネクタイのなびく方向など、左右どちらに換えたっていいようなものだが、私の場合、始めにイメージが閃くと、それがフィルムに感光したようにこびりついてしまい、以降はどうにも融通が利かなくなるのである。そうなると、いくら考えたってファースト・インプレッションを越えることがない。


2009・3/19

先日、アダージョ14号用の背景を撮影した。アダージョの場合、背景を先に決めて、その現場にあわせて造形することになる。都営地下鉄駅周辺が背景と決まっているわけだが、画になる場所ばかりではないので、そのかわり、主人公に現場に合わせてもらうことになる。今号の小津安二郎が弁慶の7つ道具よろしく、映画用カメラ、ヤカンなどと、少々賑やかだったので、次号はあっさりといきたいと考えていて、できれば多少サスペンスタッチに、と思うのだがどうだろうか。佳境に入る。


2009・4/29 制作ノート

今回まず決めたのは、背景が夜ということと、清張の髪がいくらか風に乱れ、ネクタイがなびいていることであった。こういうことは、何がどうということではなく、なんとなく浮かぶのである。本文には日比谷と清張のかかわりについて詳しく書かれているが、日比谷といって私が思いつくのは『日本の黒い霧』とかかわりの深い、GHQ(連合国最高司令官総司令部)が置かれた旧第一生命ビル(現DNタワー21)である。実際行ってみると実にサッパリしたビルで、最近デザインされたといってもおかしくない。補修が行われたためか、使われた石材の質によるものか私には判らないが、経年変化が感じられないので、ここをあのマッカーサーが出入りしていたとはイメージしにくい。一方隣りにならぶ明治生命ビルは装飾的で趣もあり、画になるように思われた。明治生命ビルもGHQに接収されているので、司令部に比べれば印象は薄いものの、私としては画になるかどうかも重要である。 今までどちらかというと明るい表紙が多かったので、今回は清張ということで、サスペンス調の夜景でいこうと考えていた。ところが窓に灯りがともる時刻になると、明治生命ビルはいささかロマンチックに過ぎ、前を歩くのが清張だと思うとまるで合わなかった。マッカーサーは司令部の場所を決めるとき、何棟かのビルを見て周ったそうだが、第一生命ビルは、そう思うと皇居を見渡す位置にあり、質実剛健的イメージのマッカーサーらしい選択と思われた。記念室となった旧マッカーサー執務室は、9・11テロ以降公開していないらしい。