ボクシング(戯曲)



竹本敏男對ホセ・ゴンザレス バンタム級タイトルマッチ
38 消息通の聲
「そら、あそこへ、リングサイドへやつて來た男があるでせう」
「あの背の高い中年の、獰猛な顔をした……」
「あいつですよ。あいつが黒幕です。例の女をあやつつてゐるのは、あいつなんですよ。例の女があらはれなきやいいが」
「どんな經歴の女なんです」
「それがね、生まれたのは多分、どこかの植民地なんです。(音樂。汽笛の音。)それから實に、いろんなことをやつて來た女です。いろんなことを……」
43 消息通の聲
「へえ、大變な女ですな」
「大變な女です」
「どうしてその女がくると……」
「拳闘界に妙なジンクスがありましてね。その女は、『死神』つて仇名がついているんです。その女と出来てゐるボクサーの試合を、その女が見に来ると、必ずそのボクサーは敗けるんです。奇妙なことですが、判で押したやうに、いつも、さうなるんですよ」

当初強い照明の光に満ちたリング上でのKO死をイメージしていた。がそのうちに、むしろ試合後のロッカールームや控え室、試合会場の廊下などの片隅で、人知れず寂しくひっそりと死んでいるのはどうだろう、と考えた。敗者には何も与えるな、というわけである。 背景は旧いビルの壁面だが、壁のテクスチャーのせいであろう。昔のフランス絵画のように見えるのが面白い。 ボクサーは今まで5、6体作ったが。すべて顔が腫れている。