明日できること今日はせず  

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11・某日14 土曜日

TVで『PRIDE.23』を観る。吉田秀彦はやはり素晴らしい挌闘家であった。ドン・フライに対し、腕ひしぎ逆十字で完勝。道衣使った閉め技を披露していたが、柔道では反則とされる技も出していくそうであるから、日本の技の奥深さを知らしめてもらいたいものである。高田延彦 引退試合。旧Uインターの選手勢揃いする。私には、仕事仲間といえるような人間はいないのだが、ああいったシーンを観ると、多少羨ましくなる。始めてそう思ったのは、クレイジーキャッツのハナ肇が亡くなった時の植木等の弔辞を聞いた時であった。 午後七時、赤坂『ですぺら』にて四谷シモンさんの自伝『人形作家』出版パーティー。シモンさんに始めてお会いしたのは、S五十五年、青木画廊の個展会場であった。会場を出るとシモンさんがこちらに向うのが見えたので引き返し、著書『シモンのシモン』にサインをいただいたのだが、運良く、ご自身がクランクを回し、機会仕掛けの人形を動かす所を拝見したのだった。 デスペラでは気さくにお話しいただき、いずれポートレイト撮影をと、お願いした。(オイルプリントを予定) 『人形作家』は面白く、とにかく作り続ける事と改めて。


11・某日13 何ということも無く一日

身に憶えの無い、コンテンツの利用料金七万いくらの請求メールが来る。代理の会社という事で、期限を過ぎているので入金がなければ押しかけてくるという。来るなら来いと返事。 密かに繁殖を期待していたグリーンテラーの雌が底砂を飲み込み昇天。ピンセットで引っ張り出そうとしたのだが。 悪い事は続くもので、今度はフラワーホーンが小魚を頭から丸飲みにし、シッポが口からはみ出した状態で泳いでいる。引っ張ったが完全には取り出せず断念。あれでは餌を食べられないだろう。 最近糠床をかき混ぜるのを忘れ、表面にカビを発生させたりしているので芥子粉を混ぜ塩をふる。 先日TVで梅宮辰夫が気になる事を云っていた。野菜に付いた農薬が糠床の中に蓄積されるので、糠床は使い捨てにしたほうが良いと聞いたという。梅宮としては珍しく『仁義なき戦い』で眉毛を剃って以来の説得力であった。


11・某日12 食料ビルディング

佐賀町の食料倉庫。壊されるという事で、公開は今日が最後。カメラを持って出かける。見学者が長蛇の列。外観は先月撮っておいたので、建物内部を人の間を縫うようにして江戸川乱歩オイルプリント作品用”部品”(壁、電燈、階段、窓枠)を撮影。ボンヤリと電燈が灯る踊り場など、怪人二十面相を想定して撮ってみた。以前から考えていたニジンスキーの背景用にも数カット。 貴重な建造物が消えていくのは残念と言えば残念だが、周りが云うほどの感慨は無い。東京の人間にはそれが当たり前なのである。建物より無くなって残念な物がいくらでもある。


11・某日11 魚さらに増える

熱帯魚ショップ巡りをしようと約束していたHからAM7:30に電話。中目黒に10:00のはずが早く行こうと起こされる。Hの車で一日かけてペンギンビレッジ、トロピランド小平店、PD熱帯魚センターと三ヶ所まわる。お互い大変な方向音痴である。車にはカーナビが付いていたが、それでも道に迷う。彼とは昔、ツアーでNYに行ったことがあるが、目的地に一度としてスムーズにたどり着く事が無く、判りやすいといわれたソーホーで何度同じ場所を歩いたことか。すんなり目的地に着いたのは一度だけで、それはヤケになり、ジャンケンで行く道を決めた時であった。  途中、Hは通行人に道を訪ねたが、聞いてるそばから判らなくなったと車に戻ってきた。ワカル、ワカル。私も憶えられるのは、角を二つ曲がる辺りまでである。教えてくれる人には悪いが、後は聞いてるフリで、二つ目の角の事で頭は一杯。 帰宅後、『成り上がり』を観る。キャロルの始めてTV出演のリブヤング。私も観ていたが、ミッキー・カーチスだかに紹介されて突然出てきた。垢抜けないが、何か違うバンドであった。直後に出た『ルイジアンナ』はさらに衝撃的であった。


11・某日10 ホントの事云ってどうする

先日、友人から『流血の魔術 最強の演技 すべてのプロレスはショーである』を借り、遅ればせながら読んだ。新日本プロレスで長くレフェリーを務めたミスター高橋著の、プロレス界、内幕暴露物である。なんでも10万部も売れたそうである。しかし、まったく野暮な事をしでかしてくれたものである。何事も明らかにすればいいという物ではない。レフェリーやレスラー自ら、観客に判らないようにカミソリで流血させていたなどと。確かに、レスラーの額の傷が縦に川の字状なのは不思議ではあったが。 七十半ばを過ぎて、なおプロレスファンの父に読ませるべきか、読まさざるべきか。いや、やめておこう。プロレスの話題は私と父の唯一の共通の話題であり、それに微妙に影響する恐れがある。 それにしても知りたくなかった。怪力豊登が、アデリアン・バイラジョンと腕相撲をして、両腕で向っていって負けたなんて。


11・某日9 学芸会

サンフランシスコ在住の妹が、亭主がチケットをもらったとかで、子供を近所の知り合いに預け、ローリングストーンズを聞きに行ったという。昔は良くストーンズ、クィーン、ニューヨークドールズ、キンクスなど聞いていたようだ。そういえば五百円で、ジーンズにアリス・クーパーを描いてやったこともある。 近々子供の学芸会があるそうで、日本人学校でもないのに『かぐや姫』をやるという。大分アメリカナイズされた大笑いな筋に変わっているようだが、甥っ子はというと、私の七五三の着物をアレンジして、かぐや姫にプロポーズするミカドの役をやるそうである。 私の学芸会デビューは幼稚園時のハメルンの笛吹きの、その他大勢のネズミであった。確か靴下に詰め物をしたシッポを着けた憶えがある。翌年は多少出世して、救世主が生まれたとベツレヘムに向う三人の博士の一人。 小学校は高学年になると、私が作演出し、いい加減な劇などやったものである。日頃大きな顔をしているような奴に最低の役をあてがったのだが、どれだけ最低かというと、私が同窓会に出席するのをためらうほどなのであった。


11・某日8 焜炉

先日骨董市で、鉄と銅でできた炭用のコンロを見つけた。これなら火力は充分である。売っていたオジさんは、「これでスキヤキすると豚肉が牛肉の味になるよ。」わけのわからない事を云って笑わす。ヤセ我慢はやめて購入し、さっそく”鶏スキ”をした。 火鉢一つでと始めたにもかかわらず、あれが必要、あれば便利と予期せぬ物が増えてしまった。簡単にやるつもりが、いささか脱線気味である。 火鉢にあたりながら鏡花でも読めばオツな気分ではあろう。ついで鏡花の『焼きアンパン』も試してみたい。もっとも鏡花の場合は焼いたら美味いからというわけではなく、バイ菌恐怖症のためで、焼く時に指が触った部分は棄てていたらしい。 骨董市では他に、美輪明宏の『黒蜥蜴』のパンフレットも入手。妙なタイミングである。乱歩で個展をせよという事なのだろうか。 


11・某日7 トースターで沸かす

毎日、鉄瓶でお湯を沸かしていると段々コツが飲みこめてきて、灰の感じも日々良くなっている。それでもガスのようにはいかない訳で、時間が掛かるので始めにガスで沸騰だけさせているが、以後はタマに炭の具合を按配するだけで湯気を立てつづける。 沸かすのに時間がかかるといえば、工芸の専門学校にいた頃、沖縄出身で大酒飲みの先輩がいた。数ヶ月に一度リヤカーを借りてきて、二人でアパートにたまった酒瓶を酒屋に運ぶ仲であった。(私達は何故あれほど飲む必要があったのか。青春期の七不思議の一つである。)彼は飲み過ぎでよくガス、水道を止められていたのだが、冬の間は布団の中にトースターを入れて暖をとっているという話だった。しかしそれだけではなく、トースターで湯も沸かし、ラーメンまで作っているという。本人から聞いても信じられなかったが、試してみると本当に沸いた。 気の合ったその先輩も、今では数年に一度年賀状をやり取りするだけだが、以前、沖縄のどこかの村長になったという噂を聞いた。きっと酒の席で担がれてその気になってしまったのだろう。当時はよく酔っ払って二階のひさしで器用に寝ていたが、あれで何故落ちないのだろうと下から見上げて感心したものである。今ごろ落ちていなければ良いのだが。 村長の座からは転落しているに決まっている。


11・某日6 鉄分は充分

ここ数日、次の個展のテーマを決めかね、鉄瓶で茶を沸かしたり鍋をやったりとぐうたらを決めこんでいる。画廊にはいつでも何でも良いといわれているので、いささか甘えているわけだが、決めてしまえば、もうそれだけという感じになるので簡単に決めるわけにはいかず、マグロ漁船に乗るのをぐずっている漁師のような状態である。 小さな火鉢の手炙りは、下に空気を送りこむ空気口が無いのでお湯は簡単に沸くのだが、鍋となるとグツグツとなるには時間がかかる。いっそのこと七輪でと考えたが、永井荷風じゃあるまいし、あまりに実用的でシミジミとしない。火鉢の場合はオフシーズンの間はベランダで金魚を飼う事もできる。安全のため消し炭を入れる鋳物製の火消し壷を入手した。戦前の物ゆえ錆びだらけ。横に火之用心の文字。


11・某日5 鉄瓶で沸かす

今の所フカフカで始末が悪い灰も、どうやら使っているうちに締まってくるようである。以前バーベキューをしたときの炭が残っていたので、それに点火してみると具合がよく、火力も上がり鉄瓶から蒸気が。備長炭などとスカしたのがいけなかった。 お茶をいれてみると確かにまろやかで美味しく感じる。銀杏炒ったり燗酒をしてみるとなかなか具合が良い。炭を足したりひっくり返したりしていると楽しく、炭の間からチラチラする赤い火を見ているとボーッとしてきて気分が良い。 あわてて換気する。


11・某日4 火起しで挫折

池袋の東急ハンズに灰と炭を買いに行く。ガスで炭に火をつけるための火起しなど必要ないと思っていたが、見ると便利そうである。火起しだけでよいと思っていると火起しを下から受ける台十能(だいじゅうのう)もあると便利そうに見える。ギンナンを炒る道具も久しぶりに見ると懐かしく、フライパンより良いだろう。ナンダカンダと予定に無い物を買ってしまう。肝腎の灰は、火鉢といっても手炙りなので三キロもあれば充分。炭は備長炭を選ぶ。門前仲町に帰り、鍋の材料とペットショップで水槽用の砂を買う。 帰宅後、さっそく火鉢の底に適当に砂を入れ灰を入れた。廃村になった村で一年暮らした事があり、その家には囲炉裏があったのだが、どうもその時と灰の様子が違う。炭も備長炭などという上等な物は使った事がなく、勝手が違う。火起しで炭に火をつけ火鉢に入れると灰がフワフワして比重が軽く、炭が埋もれてしまう。どうも火鉢には向いていない灰のようである。 結局、火鉢の上で”保温”された鉄瓶を見ながらガスの火で鍋をつつくという情けない事になり、ボーイスカウト上がりの火起しの自信もしおれる。


11・某日3 骨董市

先日、鉄瓶を手に入れた。中は赤錆だらけであったが、ワイヤーブラシで大方落し、茶葉をしばらく煮立たせたことにより、鉄分とお茶のタンニンによって鉄瓶内に黒い皮膜ができた。これで準備万端。 昼過ぎ、近所の富岡八幡の骨董市にでかけ、火箸、灰ならし、五徳を入手。後は灰と炭を買えば、お茶を沸かしたり、ギンナンを煎ったり、鍋を煮たり、一酸化炭素中毒で死ぬ事ができる。ついでに昭和二十二年発行の探偵雑誌ロック『探偵小説傑作集』を千円で。五徳の錆びを落した後、さっそく海野十三『千早館の迷路』を読む。


11・某日2 探偵講談

池袋は豊島区民センターにて旭堂南湖さんの『乱歩を読む探偵講談』を聞く。始めに名張市長、豊島区長の挨拶。最前列には平井隆太郎先生もお見えになる。新保博久さん芦辺拓さんとお会いする。 乱歩は講談のスタイルを作品に取り入れていたそうだが、確かに乱歩作品はは講談に向いているようである。私は三回目だが楽しく聞く。その後宴会へ。乱歩、ミステリーファン七十名という大宴会に圧倒される。 廃れてしまった探偵講談を再興しようという南湖さんの試みは、御本人は大変だろうが実に面白い。私も廃れたオイルプリントを古本屋に通って始めただけに気持ちはわかる。来月にはCDもでるそうだし、次は海野十三という事で、さらに楽しみである。


11・某日1 矢の如し
 
最近、時間の経つのが早い。灼熱の夏から、あっという間に薄ら寒くなり、十一月だが、どうも実感が無い。一年のうち何ヶ月か気絶でもしていたのではないかという気さえする。 親類の子供達を、少年探偵団役になどと考えているうち、気がついたら大学生になり社会人になってしまうし、いずれあの建物の前で、乱歩や荷風を撮影してみようなどと悠長にかまえていると、いつのまにか取り壊されている。 昔は年寄りの盆栽趣味など、あんなじれったいものをと理解できなかったが、年寄りには盆栽が、日々モジャモジャ伸びているように見えるのだと思えるようになった。