明日できること今日はせず  

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2・某日14 インターネット・オークション

朝、郵便配達に起こされる。粘土べラを握ったまま寝てしまったようだ。体がすっかり冷え切っていた。いつも寝る寸前まで作っているので、『そろそろ時間だから寝る仕度をしましょう。』という感覚がなく、気がついたら寝ていたという事が多い。当然、灯りもつけっぱなし。子供の頃も、クレヨンを握ったまま寝てしまって怒られたものである。あれは体温で溶けるので始末が悪い。 荷物はインターネットのオークションで落札したジャン・コクトーのビデオであった。インターネットをしていて感心するのは、世の中には様々な人がいるものだという事だが、オークションを見ていると、世の中には、様々な物がある事に驚く。中には粗大ゴミの範疇ではないかと呆れる品物もあるが、それを必要とする人がいるので、また感心する。もっとも世の中に無くてもよい物をわざわざ作っている私のような人間には、様々な人間がいてくれないと困るのである。


2・某日13 ただのゼラチン

オイルプリントの用紙に塗るゼラチンを、頼んでおいた日本橋の問屋に買いに行く。ゼラチンはお菓子用から色々試してみたが、始めに買った店で買う習慣に。ハンコがいるような劇物もここで買うのだが、なにしろ雰囲気が悪い。いつもの客とタイプが違うのかもしれないが、なにも全社員で、あんな顔で見る事もないだろうに。まるでバイクに乗ったピーター・フォンダを見る村人のようである。カントリー&ウエスタンのライブハウスに入ったとたん、全員に満面の笑みに迎えられ、それはそれで二度と行かないが、小口の客とはいえ、そんな態度はないだろうという感じなのである。サインをして、とっとと外に出たのだが、カバンをもってこなかった。問屋のせいかここはいつも剥き出しで渡されるのを忘れていた。無愛想な事務員に紙袋でも頼めばよかったが、もう一度入る気がしない。しょうがないのでビンを2つ抱えて地下鉄に乗る。別にドクロのマークが付いているわけではないが、怪しい薬品が入っているようには見える。地下鉄車内のガラスに映る、私の後ろに立つ男が、首をかしげてビンのラベルを読んでいるのが見えた。


2・某日12 川柳川柳独演会 なかの芸能小劇場

吉川潮著「突飛な芸人伝」にも登場する川柳川柳の独演会を聞きに行く。吉川さんとの対談もあるので、楽屋にお邪魔し、昨年カバーを担当したこの文庫本にサインをいただく。例によって、放送禁止用語連発の舞台。こういった所に出向かないと、使われなくなった言葉を忘れてしまうかもしれない。途中、美声による軍歌にちょっと眠くなったりもしたが。帰りに川柳さんのサインもいただく。これでショパン猪狩と快楽亭ブラックのサインをもらうと、この文庫本も異様に濃厚なサイン本になることであろう。「ASAGAYA FRIENDS」のプロデューサー矢野さんと、ベーシスト谷口さんと飲む。インターネットのオークションの話などで盛りあがる頃、終電の時間。


2・某日11 ゼラチンペーパー

オイルプリント用の用紙を調達。長期保存のため無酸紙を使用する。昔から版画、水彩画などに使用されているタイプの紙である。私の好みで、いくらかクリームがかった用紙を選んでいる。一晩水に浸し、紙の伸び縮みを取り、乾燥後に再び水に浸した後、溶かしたゼラチンを均一に流すように塗布する。 毎年、今ごろ一年分のゼラチンペーパーを作っておくのだが、低温でないとゼラチンが固まらず、いつまでもドロドロのままなので、この時期になる。本当はもう少し早いほうが良いのだが、寒い夜中に、水に濡れながら行う作業はなかなか切ないもので、つい春めいた頃になってしまうのであった。 


2・某日10 古典レンズ

フォトギャラリーインターナショナルで11×14インチの密着焼き用木製プリンターを購入。手持ちのプリンターは8×10インチだったので、これで少し大きめのオイルプリントが制作できる。「プラチナプリントの輝き展」をやっていたので観る。イモ−ジェン・カニンガムが良い。古いレンズなのだが、それにより一段とプラチナプリントが美しい。古典レンズは始めから美しい描写をする(しない物の方が圧倒的に多いが。)良いレンズを手に入れるという事は、良い画材を手に入れる事に等しい。友人であり、私のモノクローム作品をプリントしてくれている田村さんから前日に面白そうなソフトフォーカスレンズが手に入ったと連絡があったので、我慢できずに六本木へ。バラの精になる予定のニジンスキーを持っていき、その古典レンズで覗く。乾燥した粘土製のニジンスキーの首筋が、コラーゲンたっぷりの潤いのある首筋に。事実を忠実に再現するだけなら写真など撮らない。


2・某日9 フライング・ボディアタック

自分で舌を噛んだ激痛で目が覚める。そんなに空腹ならと早い食事をする。昨日、デジカメの不調でアップしなかった制作状況を久しぶりに更新した。バラの精などは、まだ上半身のポーズもはっきり決まってない。撮影ではバラの花ビラを撒き散らしながらジャンプさせる予定だが、今の所、まるでアントニオ・ロッカがフライング・ボディアタックをしているようで優雅さに欠けている。その点を改善しなければならない。


2・某日8 鋼鉄の太腿

スピードスケート500M決勝。清水宏保50センチ差で惜しくも銀メダル。バレエ評論家、鈴木晶氏は著書「ニジンスキー神の道化」の中で『スピード・スケートで大活躍した清水宏保の腿を見たとき、私は思わず「ニジンスキーだ」と叫んでしまった。清水はその身長の低さにもかかわらず、異常なほどに発達した太股で金メダルを勝ち取ったのだったが、ニジンスキーもまたその太股による驚異の跳躍力で世界のスターになったのだった。』といっている。 TVでは清水の姿に励まされたなどというコメントを聞くが、私は人のやっている事を見て、励まされた事は一度もないので不思議でならない。感動までたかるんじゃないと言ったのはビートたけしだったか。


・某日7 自動機械

混み合った銀行で振込みの手続きをした。機械が新しくなっていて指示通りやるのだが、これがちょっと手間取ると早くしろと音声で催促する。少しの躊躇も許さないという感じなのである。何秒間か間があくと催促するという設定がされているのだろうが、まったくやかましい。手順を説明するならともかく、作業を続けろというだけなのである。『今やろうと思ってたのに。』大体こんな大きな音にする必要があるのだろうか。後ろに行列している人に機械になれていない人に思われるではないか。(なれてないけど。)自動改札に行く手を阻まれたり、機械に催促されたりと、まったく腹の立つことが多い。後ろに人が並んでいなくて、監視カメラがなかったら、一発、殴りたい所であった。中学生の頃通った小岩スカラ座の自動券売機も「ありがとう御座いました!」辺りに響く音で大変迷惑であった。しかし自動券売機だから成人映画が観られたわけで、自動化されて有り難かったのは、あれぐらいのものである。


3・某日6 薔薇の精

牧神第一作の仕上げをしながら、バラの精の頭部にかかる。今の所、ニジンスキーは無表情に近いのだが、ロマンチックなバラの精は、微笑んでいなくてはならない。私は今まで笑顔の人物を作った事が数える程しかない。人形の口元を、もうちょっと微笑みなさいと作りながら、つられて私の口元も引きつっている。制作中の姿は人に見られてはならない。 モノクロのプリントをお願いしている田村さんから、今度、一辺が一メートルある印画紙を入れると連絡があった。即座にバラの精がハイジャンプしているシーンが浮ぶ。それともう一つ。コクトーの作品で、バラの精を踊った直後のニジンスキーが、舞台裏で椅子にへたり込み、そのまわりをディアギレフその他の関係者が見守っているという簡単なスケッチがあるのだが、それをリアルに作ってみようと考えていた。着地することなく空中に消えていったように見えたという有名なジャンプで、舞台裏に消えたニジンスキーは、息もたえだえだったそうだが、おそらくそのシーンを目撃したコクトーは現場で描いたに違いない。しかしオイルプリントはサイズが小さいので、その雰囲気を、いかに出すかと考えていたので、モノクロの大画面で決まりだろう。


2・某日5 パイプ

インターネットのオークションで、妙な形のパイプを手に入れた。友人の中には私のパイプ趣味は、澁澤龍彦の影響だと思いこんでいる人がいるようだが、澁澤を始めて読んだのは二十歳の時で、それより以前の十八歳、那覇空港でマッカーサーのような大きいコーンパイプを買ったのが始めてだった。その後、人にあげてしまった物もあるが、今では16本になる。何かの記念という事で買ったりしたものだが、なんの記念だったか一つとして覚えていない。現在でも、家に居る時はパイプタバコが多い。紙の焼ける匂いもなく香りが良いし、私は肺にまで入れないので身体にも良い。以前は外出事もパイプであったが、外で酒を飲んだり食事をする場合、さすが外来の文化だけあってコーヒーやステーキなどの動物性タンパク質の後には合うようだが、反対に醤油を使った料理に全く合わない。(と私は思う)それに最近はパイプをくわえて歩いている人が殆どいないので、目立ってしょうがない。しかしここの所、健康の事を考え、できるだけパイプにしていこうと思っている。そんな時、誕生日という事で、もう一つパイプを頂くことになった。来週には届くそうなので楽しみでしょうがない。


2・某日4 誕生日

めでたくもあり、めでたくもなしであるが、最近は死ぬまでに幾つ作品ができるのだろうなどと考えたりする。戦争などに巻きこまれない内に、ドサクサにまぎれて造り散らかしてオサラバできればそれで良いのだが、どうせ、まだあれが造りたい、こうすれば良かったなどと言いながら死んでいくに決まっているから、とりあえず目の前の作品を一つずつ仕上げるしかないのである。検索すると、ボブ・マーレー、ベイブ・ルース、アン王女、フランソワ・トリュフォー、アンパンマンも誕生日だそうだ。良いのだけ選んだのだが。


2・某日3 山羊

ニジンスキーの二体目(一体目の完成は後回し。)が明日あたり彩色を残し完成予定。デジカメの調子が悪く、フィルムで撮影して、途中経過をアップしようと思っていたが、現像に出している間にも進んでしまうので、どうせならもう少し形になったらと考えているうちに、完成を迎えてしまいそうである。牧神は何体か造るつもりだが、一体目は半身半獣のニジンスキー。牧神というものは、山羊のイメージなのだろうから、ヒズメは偶蹄目ということで二つに分かれている。(ちなみに馬やサイのように一つや三つのヒズメの動物は奇蹄目)あんなホルスタインのような模様の山羊がいるのかと検索してみたが、出てくるのは狂牛病関係ばかり。牧神自体が架空の物なのだから、どうでも良い。 プロジェクトX「炎を見ろ赤き城の伝説」首里城・執念の親子瓦を観る。首里城復元の話。赤瓦に朱塗りの柱に弁柄の壁と様々な赤色が美しい。沖縄は三回行ったが、まだコザがあり、車が反対を走っていたから随分昔になる。道を歩く老婆に「ニッポンから来たね?」と聞かれたりした。始めて聞くハイサイ叔父さんのレコードジャケットでは喜納昌吉がネクタイをして青春歌謡の歌手のようであった。陶器工場でアルバイトなどして楽しく、何を食べても美味しかったが、山羊汁を食べなかった事が悔やまれる。


2・某日2 牛蒡 

糠漬けはここのところ、ショウガと胡瓜とゴボウがレギュラーという感じである。特に短いゴボウが美味しい。戦時中、捕虜にゴボウを食べさせ、木の根っ子を食べさせたと戦犯にさせられた人がいると聞いた事があるが、大統領が、御菓子をガツガツ食って気絶してしまう国の連中である。このゴボウの香りを解するとは思えない。ここ二日間、一歩も外へ出なかったが、こんな時は、糠味噌をかき混ぜる事が気分転換になっているようである。かき混ぜている最中に、知人のニジンスキーファンから進められて、古書サイトに注文しておいた、『牧神の午後』山岸涼子(朝日ソノラマ)が届く。少女漫画は小学生の頃に、妹の少女フレンドやマーガレットを読んだくらいで馴染みがない。描き手の興味があるところと、そうでないところの差が激しいという印象があり、中年、老人男性が宝塚のような所も苦手であった。そんなわけで久しぶりだったのだが、友人に、ニジンスキーはどんな人物だと聞かれたら、これを読ませる事にしよう。大変解かりやすく描かれている。ただし、実際は、脚は太くて短いし、こんなに綺麗じゃないとだけ付け加えておくが。


2・某日1 レンジ内爆発

石膏でできた頭部を乾かそうと電子レンジに入れて加熱。少しずつ加熱すれば良い所を、少々急ぎすぎてドンッという音とともに爆発。レンジ内が散々な事に。私は普段はノンビリし過ぎくらいの人間だと思うのだが、造る事になるとセッカチになってしまうのである。レンジの蓋をそっと閉め、なかった事にして作業に戻る。.