明日できること今日はせず  

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2某日14 一日

『人間椅子』はあと2カットで終わる予定。2カットといっても合成があるので、そう気楽なものでもないのだが。椅子の中の椅子人間も二回ほど撮り直しをした。これは私自身が演ずるつもりであったが、微妙な調整が必要なので演芸好きベーシストTさんに、断腸の思いで玉座を譲ったのであった。 先日、下町に残る土蔵内で撮影をしてきた。土蔵は火事の際は、空気口を土や味噌などで塞いで焼けるのを防ぐらしいが、その耐火性能はたいしたものである。そのせいか、乱歩邸だろうと、どこだろうと、土蔵は足下から冷え々としてくる。これで『屋根裏の散歩者』または土蔵が出てくる作品はだいぶ形になってきたようである。 『白昼夢』これはガラスケースに収められた生首のカットで終わる予定だがキャスティングが決まらず。これは人形では面白くないので、是非本物を使いたいところ。しかもそこらに転がっているような生首ではオチが決まらない。 人間椅子予告編 


某日13 人間椅子

乱歩作品には、狭い所を好む閉所愛好症ともいえる人物が登場する。乱歩自身も狭い所が好きでサラリーマン時代、会社をサボって押入れに閉じこもったりしていたようである。 中でも極めつけは『人間椅子』であろう。男は椅子の内部に棚まで作って、水筒や乾パンさらに排尿用のゴム製品まで備えている。それは変態行為というより、むしろ秘密基地を作る子供を思わせるものである。さらに本棚があれば完璧であろう。 これが少々広くなったのが、旧乱歩邸土蔵ということになろうか。寒さで書斎化を諦めたそうだが、暖房用の電線まで引っ張ってきて、断念した時の乱歩先生の残念そうな顔が思い浮かぶ。 世の中には『人間椅子』に刺激され、椅子を特注した粋人が少なからずいるに違いない。家族には2、3日旅行に行って来るからと云って椅子に潜り込む。奥さんはまた始まったとウンザリだが、円満な家庭生活のため、気が付かないフリで旦那の奇癖に付き合う事になる。そういえば乱歩作品には変装して他人になりすまし、自分の家に通うという作品もあった。やはり奥さんにはとっくにバレていた。 


2某日12 プラチナとダイトラ

『押し絵と旅する男』には魚津の蜃気楼が出てくる。これはCGでと考えているが、作中では空と海の境がないという事になっている。水平線を描かずして、どうやって海にしろというのであろうか。多小の境目は勘弁してもらいたいものである。小説は読者がイメージすればよい事で、わざわざ画にしようなどということは、野暮を承知の上でないとやれない。 夕方、田村写真で、こんど手がけるというダイトランスファーの事で顔を出す。この技法は、3色に分解したネガを使ってカラープリントを得る技法である。その色の再現力から、美術品、文化遺産を画像により残す場合などにも使われていた。これはどうやら乱歩的色彩を出すのに最適であると判断。乱歩の本を出版の際、個展を催すつもりなのだが、展示する写真は、ダイトランスファーとプラチナプリントに決めた。乱歩はこのくらい豪勢にして丁度良い。決めたのはいいが、未だに開催場所が決まってないというお粗末なのであった。


2某日11 TV電話2

HにTV電話のことを持ちかけると、俺たちでか?と、あまり気がすすまないようなメールが来る。それを云っちゃお終いである。私だって彼の顔を見たくてしょうがない訳ではない。逢って話している時でも、なんなら目をつぶっていたっていいくらいである。むしろ最近孵化に成功したという稚魚の、動いているところを見せろと云いたいのだが。もっとも昨日のように、江東区と江戸川区でというのも有り難味が薄いとは云える。そこでアリゾナの友人に持ちかけてみている。 ヘッドフォンにマイクが付いているヘッドセットも必要だと調べたら、今では安価で手に入るようである。私の小学生時代はヘッドフォン自体が買えるものではなかった。先日亡くなったNと、自転車でテレビがうず高く捨ててあるところに行っては、スピーカーを片っ端から取って来てスピーカーボックスなどを作ったが、私は母に頼んでカチューシャを買ってきてもらい、ヘッドフォンを作ってラジオやテレビを聴いていた事を思い出した。そう思うと、我々の世代であれば、TV電話はアポロとヒューストンのやりとりを思い出し、隔世の感にツンと来ること請け合いなのだが


2某日10 TV電話

インターネットでやってみたかった事の一つにTV電話がある。世の中にはどのくらい普及しているのだろうか?私の周りでは、興味ある人がほとんど居ないようである。カメラだけは手に入れていたので、小学校時代の酔狂な友人Eと実験してみた。お互いマイクがなかったので、私はヘッドフォン、相手はイヤフォンで代用した。Eはカメラも無いので一方通行であったが、ちゃちなカメラのわりに、案外鮮明に映っていたらしい。もっとも、小学校から見飽きた私の顔を鮮明に見せる必要はないし、また、相手が美人の女性ならまだしも、彼にも是非ちゃちなカメラをと勧めたのであった。 最近、バラエティー番組の中で、一般人(といっても工学的な仕事に携わっている人のようだが)が作ったロボットを土俵の上で戦わせているのを観た。私は二足歩行のロボットなど、つい最近出来たばかりで、まして大企業にしか成しえていないものだと思い込んでいたので、その自由な動きに驚いてしまった。こうなると、自分の造った人形を自分の家でスキャニングし、映像で動かす事など、案外実現は早いのかもしれない。その時、私はまだ写真を撮っているのであろうか。


2某日9 子供嫌い

某文学館の学芸員の方々と会い、展示のことについて話を伺う。場合によっては市川市、たてもの園に続き、街の風景の中で人形を撮影する事になるかもしれない。江戸川乱歩も扱うことになるのなら、地元の子供たちを集めて、少年探偵団役に使うのはどうかと提案してみた。二十面相の後ろで、サンマを狙うネコみたいな顔をさせておけば画になるであろう。 子供を対象としたワークショップの話もでたが、私は子供が苦手である。私が子供の頃、大人を見て思ったことを、こいつらも思っているのではないかと思うと、とても我慢ができない。もっとも私は少々特殊だったような気もするし、妹の子供達にたまに会うと、可愛いような気がしないでもない。というか、まあ可愛い。しかし、たとえば犬などの動物でもそうなのだが、可愛がっているところを他人に見られると、自分が良い人に見えているような気がして、恥ずかしくて絶えられないのである。だから親しい友人の中でも、私は動物嫌いという事になっている。甥っ子たちに対しても、私と甥っ子だけにしてくれれば良いのに、面倒など見るわけが無いと思われているので、そんな状態にはならないのである。私は素直になるきっかけを失ったままきてしまった。もういまさら演技プランを変えるわけにはいかないのである。


2某日8 訃報

何十年も会う事がなかった幼馴染のNが亡くなった。 幼稚園の頃は私より一年近く生まれが早かったので、その差は大きかったのを覚えている。塀から飛び降りて腕を折ったりするやんちゃ坊主であった。小学校4年の頃、Nの家が新しく洗濯機を買った。いらなくなった洗濯機をばらして、陶芸家みたいにロクロをやってみようという事になり、庭先で剥き出しにされた回転部分。文房具屋で紙粘土を買ってきてスイッチオン。庭は猛スピードで一面の銀世界に。ガットギターに段ボールのドラムから始まり、二人でバンドらしきものを始めると、彼は石油ストーブの反射板にマイクを貼り付け、トンネルの中のようなリバーブエコーに始まり、様々な装置を造って多重録音など工夫していたものである。友人と集まっても、ギターを弾きっぱなしで離さない男であった。しかし、他人の曲をやったってつまらないから、オリジナルをやろうという私の意見のおかげで、バンドは上達する事はなかった。一時は中学校の美術教師をしていたが、運悪く学校が一番荒れている時期で、やんちゃだった子供時代とちがって神経が細くなっていた彼は、やめて造形関係の仕事をしていたらしい。 そういえば昔、ニッポン放送『かぜこうじのタムタムタイム』で流れたテープは探せばどこかにあるはずである。高校の頃のオープンリールテープも1本残っている。中で口喧嘩をしているが、後で聞いたら私の方が間違っているのにNのせいにしている。バツが悪くて一度しか聞いていない。


2某日7 特撮

私の小学生時代は怪獣ブームの真っ只中であった。ゴジラが道化じみてきたあたりで見る事はなくなったが。ゴジラが久しぶりに復活した頃であったか、映画館で観た事がある。ところが昔と違ってくゴジラが巨大に見えない。子供が見るのと違うのは当然だが、それにしても画面に立体感が無さ過ぎる。一つには、使用レンズに対する考慮が足りないのではないか。 最近、画像の合成などしていると、使用するレンズの特徴を知らないと、木に竹を接ぐような事になってしまい、具合が悪い事が解る。そう思うと、当時の特撮監督、円谷英二はどうだったのだろうか。図書館で調べてみると、撮影技師の出でだそうで、『「円谷のローキー」というのが有名だった。これは露出の浅さと、現像処理方法との微妙な調節で、何ともいえぬ柔らかな写真を作る独特のテクニックだった。』と撮影技師時代に、すでに他とは違うネガを作っていたと本多猪四朗が云っていた。当然レンズのことなど熟知していたわけである。納得する。 ついでに特撮映画の華、水野久美の水着姿をスキャンしデスクトップに。


2某日6 孵化

先日生まれたフラワーホーンの卵が無事に孵化。親は、2匹ともウチで生まれたペアである。最近は、孵化にいたるかは、だいたい判るようになってきた。まずメスの目が真っ赤に輝き、身体に縞模様が現れる。これが発情のサインで、オスにアタック。産卵にいたっても、オスが上手く仕事をしてくれているとは限らず、無精卵に終わる事もある。しかしオスの食が細くなり、くわえた餌をメスに横取りされても、黙って引き下がるのを見ると、父親の自覚があるという事のようである。メスは卵がカビないよう、孵化するまでずっと卵を扇ぎ続け、孵化すると私から見えないよう、2匹で稚魚をかくしているところなど実にけな気である。子供の頃、TVでディズニーの動物映画を観ながら、うまく演技するものだと感心していたが、金色夜叉や瞼の母なら、ウチの魚でも撮れそうである。 黒蜥蜴の第一カット。 


2某日5 雪を求めて川治温泉へ

掲示板にいただいた積雪情報を元に、切断された脚役の友人を伴い、浅草から東武線にて鬼怒川方面に向かう。今年に入って東京は雪が降らず、塩やメリケン粉での代用も考えたが、バランスが悪いので本物の雪にする事にした。雪の様子を見ながら川治温泉で降りる。ダムを眺めたりしながら撮影場所を探し、温泉街で昼食後、道路わきの雪溜まりを撮影場所に決める。友人にも自分の脚がうめられる雪山作りを手伝ってもらう。 人を生き埋めにする場合、特に何かの書類にサインをしてもらいたい場合、その人、自らに穴を掘ってもらうのが鉄則だそうである。そのほうがサインをしやすい気分になるらしい。今回は、雪の中からわずかに脚が覗いていればよい。仕上げにペットボトルの水に絵の具を溶かした血糊をポタポタ。思惑と少々色味が違い、どうみてもカキ氷にイチゴシロップ。切断から時間が経っているので、血は少しで良い事にする。私は伊藤晴雨と違うので、さっさと撮り終えた。 たった1カットのためにここまで来てしまったが、”書斎派”の私としては、できれば我が家でイメージする世界のすべて創り上げる事が理想である。


2某日4 恥を重ねて

乱歩が牛込に住んでいた頃、宇野浩二がたずねて行った。乱歩は旅行に出ていると居留守を使ったそうだが、そのことが気になってしょうがない。随分経ってから本当に旅に出て、あの時は居留守を使ってしまいましたと、群馬の旅先から詫びの手紙を出している。『江戸川には、こういう微妙な気質がある、ということがわかって、何ともいえぬゆかしい気がした。』とこれも居留守の常習犯、宇野浩二は書いている。 遠藤周作が、昔ししでかした恥ずかしいことを思い出し、その恥ずかしさに毎晩悩ましげなうめき声を発する男の話を書いていたような気がするが、乱歩はおそらくそれに近いタイプではないだろうか。 私はそのタイプである。一人でいる時、突然思い出されて赤面しそうになる。そんな時は、未だに覚えている人はいないだろうと考え、仮に覚えている人がいたとしても、今、思い出してはいないだろうと安心する。今日も歩いていて突然思い出し、イヤ、マイッタナーと、一人恥ずかしくなった。何をやっているんだか、まったく馬鹿な話である。これからも恥を重ねて生きて行くのかと誕生日が過ぎ行く。


2某日3 粘土製の椅子

私の写真作品は40センチほどの人形を人間大に見せているわけだが、云ってしまえば手前にある物は大きく見えるという、仕組みは実に単純な物である。人形のサイズ、背景と人形との距離、人形とカメラとの距離、レンズの画角、人形に当たる光の調子など、微妙なものはあるのだが、今ではほとんど細かい事を考えないで撮る事が出来る。しかし、この方法の欠点は、常に手前に人形がなければならない。つまり実物の人なり物を、人形の前に配置する事ができないのである。しかしそれでは画面の展開に限りがあるので、デジタルでの合成という事になる。合成していると思っている人に、合成は一切していませんという快感が無くなってしまうが、イメージする画を実現するためなら、どんな卑怯な手だって使いたい私なのである。 ここ2日ほど『人間椅子』の1カットに四苦八苦していた。20センチほどの粘土製の椅子を、あらかじめ撮影していた夫人に座らそうと言うわけである。多少舐めてかかった事を反省しているが、満足できる画が出来上がった。この画では、この椅子は20センチの粘土製だという快感がある。


2某日2 サポートセンターに吉田日出子

パソコンの周辺機器の具合が悪くなり、メーカーのサポートセンターに電話をする。若い女性が可愛らしい声で応対。それは良いのだが、会話がとんでもなく馬鹿っ丁寧でスローモー。音声案内では一分何円かかると云っていたが、わざとやっているのだろうか?何か云うたび、子供に昔話でもしている調子で「恐れ入りますがー○○をやっていただいてもーよろしいーでしょーかー」というのだが、そんな台詞に4秒はかかっている。やりましたと云うと「ハイ、有難うー御座いまスゥー。」これも何十回と聞かされる。とっとと先に進めてくれと思うのだが、ずっとその調子で、どうも私を人間扱いしていないようである。イライラしてきて、相手の台詞が終わるのを待たず「○○は終わりました!」と云う事にした。おまけにパソコンの再起動を5回ほど。ヌリ壁と話しているような気分のまま40分ほどかかり、結局パソコン側の問題ということで、パソコンメーカーに聞いて下さいという事に。


2某日1 明智小五郎

明智小五郎役を、ある俳優さんにお願いしたところ快諾を受ける。これで二十面相、黒蜥蜴に展開が開けるであろう。聞くところによると、デビュー作はエドガーアランポーの詩をこよなく愛する青年の役だったそうだ。乱歩先生、明智もやりたいところだろうが、こればかりはさすがに遠慮いただいた。 乱歩作品の中で、黒蜥蜴と並んで触れると危険なキャラクターに小林少年がいる。どんな美少年を造ったり連れてきたとしても、見る人を納得させることはできないであろう。百人いたら、百とおりの小林君がいるわけで、あの赤いホッペには乱歩の魔法がかけられているゆえに、永遠に古びず生き続ける。こんなやっかいな小僧に、私は今のところかかわるつもりはない。 黒蜥蜴に着ける飾りを入手。包装紙やリボンなどいらないが、綺麗なのでとっておく。何かに使えるかもと考えるので物ばかり増えていく。宝飾品はあとで合成を考えていたが、人形に着けてみると小さな飾りも豪勢になる。このまま着けてもらうことにした。