明日できること今日はせず  

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4某日16 浅草

天気も良いので撮影に出かける。一眼レフを持っていく気が起きないので、ヤシカエレクトロ35GXを肩に、オリンパスXA4をポケット。サンダル履きで出発。連休前にと浅草寺に行くが、すでに人手が多い。前回来た時、おそらく『タイガーアンドドラゴン』のロケをやっていたが、楽しみにしていたのに、まだ一度も観ていない。木馬館の前で12時。丁度芝居が始まるところ。良いタイミングだがあきらめる。1時。飲み屋の前で、はやくも開店を待つ老人3人。一人は腕時計を見ながら、ゲートインした競馬ウマの如し。尿意をこらえているようにも見える。早く開けてあげなさい。 そういえば、私は花やしきの中に入った記憶が無い。小さい時に、何か怖い目に合ったのではないか?回転モノかもしれない。不明である。 富岡八幡の前で、らっきょを買って帰る。


4某日15 盲獣

『盲獣』用ヌード撮影。以前撮影したイメージに近いが、今回は乱歩が着物を着ているのと、背景の女性がボリュームアップ。ついでといってはなんだが、死体用のポーズもとってもらう。殺されてしまうにもかかわらず、彼女からは、ドリンク剤の差し入れをいただいた。お気使い有り難いこと。 撮影現場は、一見馬鹿々しいような状態ではあるが、(二見、三見してもそうだが)その分高まる共犯意識。2時間で終了。 協力いただいた甲斐を感じてもらおうと、イメージ通りに出来上がった画像を、メールにて送る。  『盲獣』は、触覚芸術などと乱歩ならではのアイディアはあるものの、私の好きな乱歩作品ベスト10には入らない。作中の、とんでもない場面をただ作りたかっただけ、と云っては云いすぎであろうか。しかし、そもそも私はただ作りたいだけの人間である。”殺人”の動機としては立派なものである。『盲獣』をテーマにしない限り、あんなイメージを手がけるチャンスは無い。


4某日14 湯船に浮かぶ死体

『盲獣』用に、真っ赤な血に満たされた湯船に浮かぶ死体の画像を制作。タイルに飛び散った血飛沫。こう書くと陰惨な場面でしかないが、これを観てその残虐さに目を覆う人は、おそらく一人もいないであろう。乱歩本人を登場させ、しかも盲獣役をやってもらう都合上、本人が顔をしかめるような場面は似合わない。長時間モニターに向かってバラバラ死体を湯船に浮かべていると、集中していたせいか、奥歯をかみ締めていることに気付いた。こんなことではいけない。近所の運送屋のパーツを撮りに行く帰りに、富岡八幡宮で一服。灯りが点り、たまにお参りにくる人を眺めながら、しばらくボンヤリ。


4某日13 白昼夢

今日は『白昼夢』の撮影の予定だったが、朝から雲行きが怪しい。白昼に生首のコントラストが効果的な作品なので、晴れていなければ意味がない。そう考えると乱歩作品は、晴れているか曇天で、雨が降っている印象がない。 手伝ってくれるTさんと連絡を取り合い、思い切って出かける。 幸い晴れてきたので、さっそく撮影を開始。このカットが浮かんだのは何ヶ月も前だが、やっとここに至った。レンズの画角、○○○○、乱歩の人形、背景の商店、商店までの距離と、一辺に判断する要素が多すぎる。こんな時は、かえって固定して計算ずくで撮るより、リズミカルに雰囲気で行く方が結果が良い。 ファインダーを覗くと、私が自分でイメージし、そうしようとしたのに関わらず、実際その通りになってみると、乱歩先生の様子が可笑しくてしょうがなく、笑いをこらえきれずにカメラを支える手が震える。私の撮影は本来、ファインダーを覗いている私にしか解らない画になっていて、横で見ていても想像がつかないものだが、Tさんも可笑しいらしく笑っていた。自分の思惑を超えたものが出来るという事は、制作する上での醍醐味である。


4某日12 1日

『大阪人』(大阪都市協会)の6月から始まる芦辺拓さんの乱歩関連の連載に、私の乱歩が使われる事になった。前夜、出来たばかりの屋根裏の乱歩を送ると、第一回はそれに決まる。誰が見たって、そうにしか見えないという直球勝負である。しかも剛速球。自分でもビックリした。 11月に世田谷文学館にて、人形と写真展示が決まる。詳細は未定だが、現在の世田谷を背景に、撮影することになるであろう。乱歩作品に登場するような御屋敷は、現存するのだろうか。なにしろ世田谷区は縁が無いのでよく知らない。例によって、できれば生前撮れなかった、もしくは撮るわけがないような画にならないと、私としては面白くない。


4某日11 風船

検索してみると森下に『夢ふうせん』という風船専門店があった。ここなら地下鉄で2駅だし、歩いても行ける。電話で問い合わせをしようと思いつつ、風船をプカプカさせながら町を歩く気がしない。かといってヘリウムのボンベを買ってまで、と思っていると、森下在住のHさんから、夢ふうせんの情報をいただき、一緒に行っても良いとのこと。それなら森下あたりで撮影し、風船はHさんに押し付けて帰ってくれば良い。 行ってみると、形も色も様々で、風船も様変わりしている。微妙な色合いの物もあるが、昔ながらの7色をお願いする。紐も昔ながらのもので。 撮影場所はHさんの使っている駐車場。 風が強く、なかなか思ったような形になってくれないが、風がおさまるたびシャッターを切る。子供が風船を欲しそうな顔で観ている。私一人だったら早撮りになってしまうところだが、Hさんのおかげで落ち着いて撮れた。 終了後、隣りの公園で遊んでいる子供に風船をあげようと向かうと、今時の子供も風船が好きと見えて、滑り台の上から一斉に手を出す。リーダーは、一回り大きい女の子。風船の数より人数が多いのでケンカしないように云って渡すと、大騒ぎしながらも、ジャンケンで決めている。『盲獣』では、飛んできた風船をラグビーのように子供同士が奪い合う


4某日10 白梅軒

『D坂の殺人事件』では、明智が白梅軒という喫茶店から、向かいの古書店を眺めている。そのためには、大正時代と云わないまでも、なるべく趣のある喫茶店が必要である。考えてみると私はそんな店をほとんど知らない。そもそもコーヒーを飲む習慣が無い。昔はコーヒー専門店など入ってしまうと、注文に苦労をしたものである。空腹時にブラックコーヒーを飲むと、半日胃がもたれる。これが上等なコーヒーであるほど顕著なようである。学生時代は日ごろの勉強不足がたたって、カフェインの錠剤だかを一夜漬け用に常用したし、他のお茶類はなんともないので、コーヒーの酸味が”毒”ではないかと、勝手に考えている。後にミルクを入れれば大丈夫なことが判り、最近はカフェオレなど覚えたが、趣のある喫茶店は、コーヒーにこだわっていそうで、なんとなく敬遠してしまうのである。それが、酒場となると話は別で、永年使われ、擦り減って凹んでいるような椅子が置いてある店を好む。店が斜めに傾いていたりするとさらに良い。  『屋根裏の散歩者』用、天井の節穴を撮影。フシは粘土製で、もちろん取り外し可能である。


4某日9 縁日

ヘリウム入り風船を買いに縁日に出かける。レビューの女王、水木蘭子の切断された足を風船にぶら下げ、浅草寺上空を飛ばすためである。それにしても、なんという場面であろう。考えたのは私ではなく江戸川乱歩である。 風船は売っていなかったのでポストカードなど眺めていると、ビニールシートの上に並べられた、たくさんの万年筆を前に、40がらみの業者同士が話している。子供の頃、工場が火事になって泥まみれの万年筆を売っていたという。「泥と灰で、こんな塊になっててさ。」「そりゃ、典型的なやり口じゃない、こんな商売してて知らないの?」「エエッホント!」つまり、勤めていた工場が火事でと同情をひいて、安物の万年筆を売りつけるというやつである。私も思わず、その御目出度い人物を見てしまった。確かに最前線に立っていても、弾に当たらなそうな顔をしている。 私が子供の頃、地元のアーケードの入り口で見たのは、「だけど品物は1級品じゃないの!」というサクラもいた。


4某日8 7つの顔の男だぜ

知人から先日、『多羅尾伴内』七つの顔の男 関貞三著、林家木久蔵編(ワイズ出版)が送られてきた。このシリーズは戦後、占領軍の規制で時代劇が作りにくくなり生まれた作品である。昔TVで何本か観たが、七変化ののち、ある時は〜から始まる「しかしてその実態は、正義と真実の使徒、藤村大造だ!」の台詞とともに強烈な印象が残っている。主演の片岡千恵蔵は、同じ時代劇スターの大御所、市川右太衛門と比べて、後々、現代劇、脇役まで柔軟な対応を見せたが、多羅尾伴内での片目の運転手、インドの魔術師などの七変化を観ると納得する。それにしても、この正義と真実の使徒が、もと怪盗で、和製ルパンといわれた男が更正した姿だったとは知らなかった。 そろそろ明智小五郎役の Iさんと打ち合わせをしなければならない。ここは一つ、活劇調でいきたいところである。 以前、表紙の仕事で乱歩邸を撮影したおり、記念に乱歩の人形と並んで、乱歩の御長男、平井隆太郎先生を撮影させていただいたが、ピストルをかまえてと事前に用意していたピストル。結局最後まで云い出せず未使用となってしまった。あれはどこへしまったろうか。


4某日7 月光降り注ぐ

首吊死体完成。まだビル側に部品が一つ欠けているのだが、私にしか判らない。 D坂の古本屋も完成。明智が現場にかけつけた時、部屋の灯りは点いていなかった訳だが、中が明るくないと、途中が開閉できるという無双障子がただの障子になってしまう。とりあえず事件の前としておく。乱歩の三人書房をできるだけ再現してみた。白梅軒という喫茶店からD坂をはさんで、明智が眺めることになっている。まさに明智初登場の重要な場面である。明智は、荒い棒縞の浴衣を着ていたが、この浴衣がなかなか見つからない。昔はどこにでもあった柄だが、雑巾にでもなって、無くなってしまったのだろう。最近は、時代劇でも、安手の着物が手に入りにくく、下っ働きの娘も絹の着物を着せられているそうである。 隣りの建物、地面などは未完成。これまた困るのが地面である。どこもかしこも舗装されてしまって、適当な撮影場所が、俄かには思いつかない。


4某日6 再撮

昨日に続き撮影に出かける。今日は日本橋から。 目羅博士の首吊りは、素っ気ないビルの裏面で起きる。そのため、面白くも可笑しくもないビルの最上階を探す。通行人が何があるのかとレンズの先を見ているが、当然何もない。 方向音痴の私が考え事をしながら歩くので、向きは違うが同じ橋を2回渡ったりと、ダッチロールを繰り返す。結局、昨日同様神保町にたどり着く。小宮山書店の3冊500円のガレージセールにて、『眠れる美女』川端康成 昭和36年(新潮社刊)等を買う。すでに10数キロは歩いた。白十字にて一服。神保町で本を買うと、蕎麦屋や、喫茶店で獲物のハラワタを抜いて、血抜きをしてから家路に着くのが私のパターンである。これをしないと、後々本棚の中で腐りやすい。 昨日の古書店内は、少々ブレていたので再撮する。 今日は、ヤケクソのように歩いてしまったが、なにもここまで来ずとも、家の近所で良かったのではないかという思いがそうさせたのであろう。いや、そうではない。築30年に届かんとする、我が自宅マンションを撮れば充分だったと、途中で気付いてしまったせいである。


4某日5 撮影

本郷、神田辺りを歩き回る。ポケットには、屋上で撮影した首吊り男の写真。それを手に聞き込み捜査のように、死体をぶら下げるビルを探す。しかし思ったような陽の角度が得られず、もっと出発を早めるべきであった。カバンの中には三人書房の看板。適当なところがあれば、いつでも撮るかまえである。神田に行き、古書店を撮ろうと思うが、店内に灯りが点くには早い。古書会館に寄り時間をつぶす。『図説 奇形全書』マルタン・モネスティエ著(原書房)を入手。私にとって自然物の中で、もっとも興味深いのは人間の形である。なかでも、私の好みの巨人について、写真つきで書かれているのが良い。 灯りが点いた古書店を歩きながら撮っていると、書肆アクセスに西秋書店のNさん。アンダーグラウンド・ブックカフェの件で忙しそうである。D坂の古書店を撮り歩いているというと、外は桜が咲いているのにと云われる。確かに。何が悲しくて首吊り男をポケットにとも思うが、これがちっとも悲しくない私なのであった。完成したらブックカフェに三人書房を出品と話す。古書展に乱歩の営んだ古書店なのだからぴったりであろう。


4某日4 三人書房進む

着々と進む。こんな脇役に時間をかけてしまっていいのだろうか。このヒヤヒヤ感はマゾヒスティックな快感を生む。 先日の撮影は、やはり大正時代の夜というわけにはいかず、かなり修正を要した。しかし最近は、多少の悪条件にはビクともしない。乱歩の三人書房のスケッチを見つけた時は困ったが、困ったと云いながら喜んでいる私である。存在しない物をでっち上げる事ほど面白いものはない。 名張人外境の大正8年、乱歩25歳の項によると『古本屋では主として芸術書(おもに小説)を扱う。店は乱歩が設計し、看板も乱歩が描いた。店内には応接間のようにテーブルと椅子を置き、テーブルのうえの蓄音機で流行歌謡をかけて、来客の社交の場とした。竹久夢二装幀の楽譜類を仕入れ、ショーウインドウに飾って販売』とある。さっそくショウウインドウに竹久夢二装幀の楽譜を飾る。その他、小説を何冊か。小説類は小さくて判らないだろうから、少々遊んでみた。ウインドウは真ん中にあるので、背後のテーブルは見えないことになる。あとは、アンケートを参考に、古書のある棚などを撮影し、障子、看板その他で整え、完成となるはずである。


4某日3 撮影

悪魔と取引するロバート・ジョンソンや気球の乱歩、その他様々な撮影に利用してきたマンションの屋上にて、『目羅博士の不思議な犯罪』用の首吊り死体を撮影する。死体役には、コニーアイランドの見世物小屋で、チャイニーズ・ネックハンギングマンとして永らく活躍した人物にお願いした。本人は5分は大丈夫だというが、20秒ほどで苦悶の表情になってきたので、適当に切り上げる。ブランクが響いているようであった。それにしても首吊り死体が美しいのです。とは乱歩先生、困ったことを書いてくれる。○○○が美味しいのです。というようなものである。 その後、『D坂の殺人事件』用の古本屋のパーツとなる建物を撮影に出かける。事件が起こったのは夜なので日没を待つが、街灯は明々と照らしているし、車のヘッドライトは行きかうし、条件は良くない。結果によっては撮り直しということになるであろう。 ※前半部分には少々フィクションが。


4某日2 三人書房

『D坂の殺人事件』の舞台になる古書店。当サイトのアンケートでも御協力いただき、探索してみた。二階はともかく肝心の店先が改装されており、大正時代というには無理がある。しかし、銅板葺きの書店であれば古色もあり、感じはでるだろう。店名を乱歩が団子坂で営んだ『三人書房』と決め、看板も造った。 昨日、新潮日本文学アルバムを見ていたら、乱歩による三人書房のスケッチがあった。二階建て、瓦葺の木造家屋である。今まで見ていたと思うのだが、単に店名だけを三人書房にするつもりだったので気に留まらなかったのであろう。見ると私の造ったシンプルな看板と違って変った形だが、私のイメージでは、古い書店に三人書房の看板で充分である。 一方『白昼夢』用の薬屋を、本郷、深川などの様々な商店を、四つもツギハギして一つの店にしてみた。やってみると、なかなか感じが良い。面倒なことができるようになってしまったものである。出来るようになると、やってみたくなるのが人情である。もっとやるべき場面が山積しているというのに・・。


4某日1 一日

久しぶりに着彩をしないままの夢野久作の頭部を眺める。技術的にどういう画にしてよいか解らない所もあり、そのままにしてあった。都内某区で区にちなんだ展示の話があるので、久作はカスリませんか?と聞いてみた。久作単体による個展をする気は起きず、発表の機会があればと思ったわけだが、カスリもしないらしい。その長い顔を見ていたら、昨年は無理だと思っていた画像が、今は造れるようになっていることに気付いた。久作着用セーターの色も判ったので早く完成させたいものである。 『押し絵と旅する男』の蜃気楼を造り直し、さらに妖しくなる。毒薬と書いたガラスケースが手に入ったと連絡も入った。新作画像を知人に送ると、学生時代の友人が泊まりに来ていて、モニターを肩越しに覗き込んで悲鳴を上たそうである。私は笑わすつもりだったのだが。