仮面の告白



『希臘の兵士や、アラビヤの白人奴隷や、蛮族の王子や、ホテルのエレヴェーター・ボオイや、給仕や、与太者や、士官や、サーカスの若者などが、私の空想の凶器で殺戮された。私は愛する方法を知らないので誤って愛する者を殺してしまふ・あの蛮族の劫掠者のやうであった。地に倒れてまだぴくぴく動いてゐる彼らの唇に私は接吻した。』
『そこで私はいつになっても、理智に犯されぬ肉の所有者、つまり、与太者・水夫・兵士・漁夫などを、彼らと言葉を交はさないやうに要心しながら、熱烈な冷淡さで、遠くはなれてしげしげと見てゐる他はなかつた。』

《汚穢屋》
『坂を下りて來たのは一人の若者だつた。肥桶を前後に荷ひ、汚れた手拭で鉢巻をし、血色のよい美しい頬と輝く目をもち、足で重みを踏みわけながら坂を下りて來た。それは―汚穢屋―糞尿汲取人―であつた。彼は地下足袋を穿き、紺の股引きを穿いてゐた。五歳の私は異常な注視でこの姿を見た。』
『私はこの世にひりつくやうな或る種の欲望があるのを豫感した。汚れた若者の姿を見上げながら、『私が彼になりたい』といふ欲求、『私が彼でありたい』という欲求が私をしめつけた。』

これは仮面の告白の中でも重要なシーンである。特に『私が彼になりたい』といふ欲求、『私が彼でありたい』という欲求が私をしめつけた。』と書かれており、世界のミシマを躊躇なく汚穢屋にすることができた。考えたのは随分前だが、肥桶からこぼれる物を血液に、と思いつくまでは作る気は起きなかった。地面に沁みつつ溜まる血液。これが上手くいくかがポイントであったろう。私には一度イメージが浮かぶと、最後まで修正が利かないという欠点がある。背景とのバランスからどうしても動かしたい。顔が良く見えないので三島を反転したいところであったが、三島の腹筋が左右対称ではないので、背景を左右反転した。本来こういう撮影用に作った作品の場合、写る部分しか作らないので展示はしないのだが、金色のあまり趣味の良くない額に入れたらさらに三島的にならないか、と額装してみた。


《エレヴェーター・ボオイ》
『大体私には、あの制服が我慢ならない。三島がもっとも愛した制服はエレベーターボーイの白に金釦がやたらついた奴だがその愛らしさはどこにもないからである。中井英夫』

親しかった中井英夫による証言である。楯の会の制服のボタンの配列などはたしかに似ており、白い夏用の制服はさらに似る。実際一人ひとり採寸されピッタリに作られており、せいぜい行進が出来る程度の物だったらしい。


《殺される王子》
『執拗に、「殺される王子」の幻影を私は追つた。王子たちのあのタイツを穿いた露はな身装と、彼らの残酷な死とを、結びつけて空想することが、どうしてそのやうに快いのか、誰が私に説き明かしてくれることができよう。』 『竜はすぐに、がりがりと王子をかみくだきました。王子はちいさくかみきられる間は、痛くて痛くてたまりませんでしたが、それをじつとこらへて、すつかりきれぎれにされてしまひますと、その場へ倒れて死んでしまひました』

幼い頃、三島が熱中したハンガリーの絵本。この物語は殺されてもそのたび生き返る王子の話だが、生き返るところが気に食わない三島は、その部分を隠して読み、ただ死んでしまう話ということにした。王子の格好は、できるだけ三島の著述どおりにしてみた。怪獣を作ったのは小学生以来だが、この作品は唯一制作を躊躇したものである。しかし全体的に見てみると、バリエーションの一つとしてあって良かったと思う。


《与太者》
「俺はアホウでロクデナシだけど、根っからのワルじゃねェ」 「少しばかりココが足りねェが、、いつまでもガキじゃねェ。一人でけっこうやっていけるさ。くたばったら葬式を頼むぜ」
『からっ風野郎』(大映)昭和40年より

拙著『Objectglass12』(風涛社)にモノクロで掲載した作品。『からっ風野郎にはピストルを構えるシーンはあっても、日本刀はなかったように思う。背景その他、特に説明する必要はないだろう。撮影日も11月のいつかで晴天。記憶のある方にはピンとくる空気になっている。ちなみに背後の桜のマークは外して玄関に置いてあった。