D坂の殺人事件

04年

11某日7 殺人事件が起こりそうな古書店

今まで制作していた乱歩作品は、特定な作品をイメージした作品は少ないので、具体的な作品をテーマに撮る事にする。現在候補として考えているのは『屋根裏の散歩者』『人間椅子』『押絵と旅する男』『怪人二十面相』『黒蜥蜴』『人でなしの恋』『盲獣』『群衆の中のロビンソン・クルーソー』『D坂の殺人事件』『「目羅博士』あたりであろうか。『陰獣』も考えないではないが、『屋根裏』『D坂』と内容がカブっている部分が多い。二十面相、黒蜥蜴に対抗する明智も乱歩先生でと考えていたが、ちょっと無理があるかもしれず、そうなると明智も造るという事になるのだろうか。『D坂』は、舞台となる古本屋がポイントであろう。今時イメージに合う書店を探すのは難しそうである。そこでアンケートを作ってみた。コチラ→D坂の殺人事件が似合いそうな古書店募集

この時点ではラインナップが決まっていない。『人でなしの恋』は人形を使うにはもってこいだと思っていたのだが。


05年

4某日2 三人書房

『D坂の殺人事件』の舞台になる古書店。当サイトのアンケートでも御協力いただき、探索してみた。二階はともかく肝心の店先が改装されており、大正時代というには無理がある。しかし、銅板葺きの書店であれば古色もあり、感じはでるだろう。店名を乱歩が団子坂で営んだ『三人書房』と決め、看板も造った。 昨日、新潮日本文学アルバムを見ていたら、乱歩による三人書房のスケッチがあった。二階建て、瓦葺の木造家屋である。今まで見ていたと思うのだが、単に店名だけを三人書房にするつもりだったので気に留まらなかったのであろう。見ると私の造ったシンプルな看板と違って変った形だが、私のイメージでは、古い書店に三人書房の看板で充分である。 一方『白昼夢』用の薬屋を、本郷、深川などの様々な商店を、四つもツギハギして一つの店にしてみた。やってみると、なかなか感じが良い。面倒なことができるようになってしまったものである。出来るようになると、やってみたくなるのが人情である。もっとやるべき場面が山積しているというのに・・。

11月の段階では適当な古書店を探し、三人書房の看板を、ただ掲げるつもりであった。いただいたアンケートの結果を元に、古書店を探し始めた矢先、乱歩のスケッチに気が付いてしまった。こうなるとどうしようもない。結果、使われることの無い三人書房の看板が残った。それは、どちらかというと寿司屋の看板のようなオーソドックスなものである。それに引き換え、実際の看板は随分凝ったものであった。おそらくデザインも乱歩によるものであろう。


4某日4 三人書房進む

着々と進む。こんな脇役に時間をかけてしまっていいのだろうか。このヒヤヒヤ感はマゾヒスティックな快感を生む。 先日の撮影は、やはり大正時代の夜というわけにはいかず、かなり修正を要した。しかし最近は、多少の悪条件にはビクともしない。乱歩の三人書房のスケッチを見つけた時は困ったが、困ったと云いながら喜んでいる私である。存在しない物をでっち上げる事ほど面白いものはない。 名張人外境の大正8年、乱歩25歳の項によると『古本屋では主として芸術書(おもに小説)を扱う。店は乱歩が設計し、看板も乱歩が描いた。店内には応接間のようにテーブルと椅子を置き、テーブルのうえの蓄音機で流行歌謡をかけて、来客の社交の場とした。竹久夢二装幀の楽譜類を仕入れ、ショーウインドウに飾って販売』とある。さっそくショウウインドウに竹久夢二装幀の楽譜を飾る。その他、小説を何冊か。小説類は小さくて判らないだろうから、
※少々遊んでみた。ウインドウは真ん中にあるので、背後のテーブルは見えないことになる。あとは、アンケートを参考に、古書のある棚などを撮影し、障子、看板その他で整え、完成となるはずである。
P31 ウインドウの中には時代を無視して『ドグラマグラ』『虚無への供物』などを並た。三人書房のレイヤー(合成の階層)は最終的に100を超える。


4某日7 月光降り注ぐ

D坂の古本屋も完成。明智が現場にかけつけた時、部屋の灯りは点いていなかった訳だが、中が明るくないと、途中が開閉できるという無双障子がただの障子になってしまう。とりあえず事件の前としておく。乱歩の三人書房をできるだけ再現してみた。白梅軒という喫茶店からD坂をはさんで、明智が眺めることになっている。まさに明智初登場の重要な場面である。明智は、荒い棒縞の浴衣を着ていたが、この浴衣がなかなか見つからない。昔はどこにでもあった柄だが、雑巾にでもなって、無くなってしまったのだろう。最近は、時代劇でも、安手の着物が手に入りにくく、下っ働きの娘も絹の着物を着せられているそうである。 隣りの建物、地面などは未完成。これまた困るのが地面である。どこもかしこも舗装されてしまって、適当な撮影場所が、俄かには思いつかない。

P31


4某日10 白梅軒

『D坂の殺人事件』では、明智が白梅軒という喫茶店から、向かいの古書店を眺めている。そのためには、大正時代と云わないまでも、なるべく趣のある喫茶店が必要である。考えてみると私はそんな店をほとんど知らない。そもそもコーヒーを飲む習慣が無い。昔はコーヒー専門店など入ってしまうと、注文に苦労をしたものである。空腹時にブラックコーヒーを飲むと、半日胃がもたれる。これが上等なコーヒーであるほど顕著なようである。学生時代は日ごろの勉強不足がたたって、カフェインの錠剤だかを一夜漬け用に常用したし、他のお茶類はなんともないので、コーヒーの酸味が”毒”ではないかと、勝手に考えている。後にミルクを入れれば大丈夫なことが判り、最近はカフェオレなど覚えたが、趣のある喫茶店は、コーヒーにこだわっていそうで、なんとなく敬遠してしまうのである。それが、酒場となると話は別で、永年使われ、擦り減って凹んでいるような椅子が置いてある店を好む。店が斜めに傾いていたりするとさらに良い。


5某日3 地面

結局、押絵と旅する乱歩は完成したが、ぐずぐずしていて光線具合がイメージと違ってきたので、撮影は数カットで止める。夕方の光を、そのまま使おうと思ったのだが。 そろそろ『D坂の殺人事件』用、古書店前の、D坂の地面を合成しなければならない。地面をどこで撮ろうかのんびり考えるが、ホントに撮る場所がない。実にふざけた話である。まさか地面を撮るために、電車に乗ることにならないだろうな。それくらいならアスファルトを剥すぜ。と腹が立ちはじめた時、老人がゲートボールをしている公園があったのを思い出した。しかし、まさか人が多くて、デジタル処理させるんじゃないだろうな。それくらいならD坂の幅を狭くするぜ。


5某日4 D坂の古書店完成

地面を撮りに公園に出かける。小雨の中、地面に向けてシャッターを切る。実にバカバカしい撮影である。小学生と老人がベンチにたむろしているだけだが、その分、たくさんのハトが地面をついばんでいる。じゃまでしょうがないが、雨の中、何をしてるんだろうと子供達が見ている。公園の真ん中でハトを追いはらう気になれず。数カット撮って帰宅。これで三人書房の撮影は終了と、乱歩が描いた三人書房のデッサンを見ると、店の前の線路みたいなものはドブ板じゃないのか?乱歩先生、こんなトコまで描かなくても・・・。しかたなく、ドブ板(に近い物を)撮りに出かける。 団子坂で、かつて乱歩が経営していた三人書房が仕上げを残し完成。フォトショップのレイヤーはすでに80を超えようとしている。これを明智小五郎が白梅軒より眺めることになる。できれば日曜日のアンダーグラウンド・ブックカフェに出品したいものである。


5某日6 撮影

早朝、明智l小五郎役をお願いした市山貴章さんと編集者二人と都内某所に集合。8時半より撮影を開始。早々に私のミスが発覚したが、都合の悪いことは書かない雑記なので省略。以後、順調に進む。時間的に造れるかどうか判らないが、女性編集者を相手に、黒蜥蜴との最後のラブシーンを演じてもらい終了。出版社に寄り、D坂の『白梅軒』にて明智と共演のTさんも合流。二人には浴衣に着替えてもらい、神田のエリカに向かう。営業中なので時間は30分。夜のシーンで遮光が肝心。助っ人も増える。ここではすでにアングルその他、決まっていたので3脚を立て、1本撮って終了。午前中に時間制限のある撮影が終わり、ホッとして皆さんと珈琲をいただく。
本書では触れることはできなかったが、D坂のもともとの出発点は、明智の棒縞の浴衣と、古書店内の開閉可能な窓のある、無双障子のトリックである。触れられなくとも、明智は棒縞の浴衣を着ていなくてはならない。棒縞の浴衣が入手できず、市山さんお持ちの浴衣を修正することになった。なんだか柔道着のような質感になってしまったが。 D坂のトップページは、事件前という設定なので障子から光が洩れているが、白梅軒からみえる古書店は無双障子か閉じていることに。ちなみに明智と向かい合う男は、頭部だけ人形にすげ代えてある。若い時代の乱歩のつもりだが、学校出たてのわりに頭髪が薄い。しかしこの角度で髪が有ったら、とても乱歩の雰囲気は出ないであろう。


5某日8 1日

近所を歩いていると、様々な色の薔薇が咲いている。花オンチの私でも青空に赤い薔薇など、つい足を止め魅入ってしまう。 などと余裕をかましている場合ではない。昨日は『D坂の殺人事件』の古書店の女房を撮影。この女房は二軒隣の蕎麦屋の主人とSM関係にある。よってその背中に傷痕を施す。しかし、朝っぱらからする作業ではない。

P41始めは生々しくするつもりはなかったので、青アザだけにしようと思っていたが、『綺麗だけれど傷だらけだ』という噂の女房なので、傷を着けているいるうち、このぐらいしないと効果が無いとザックと着けてみた。モデルの女性には大変”好評”であった。