押絵と旅する男

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2某日12 プラチナとダイトラ

『押し絵と旅する男』には魚津の蜃気楼が出てくる。これはCGでと考えているが、作中では空と海の境がないという事になっている。水平線を描かずして、どうやって海にしろというのであろうか。多小の境目は勘弁してもらいたいものである。小説は読者がイメージすればよい事で、わざわざ画にしようなどということは、野暮を承知の上でないとやれない。― 

P71この押絵は額に入っており、全体像は使用できない類の物である。制作年代不明。蜃気楼はこれを加工して使用。P72〜73 蜃気楼はどうやって描くか悩むところであったが、ここで男と女を象徴的に登場させる事にした。お七の押絵は、大正時代の押絵羽子板を利用した。


5某日1 押絵と旅する乱歩

朝、着けっぱなしのラジオから流れる、天知茂の陰々滅々たる昭和ブルースで目が覚める。午前中からこんなもの流すなと云いたい。昨日作った押絵と旅する乱歩をベランダにもって行き乾燥させる。 魚津から上野へ向かう列車内。押絵の男側の車窓からは、夕焼けの日本海が見えるという設定であった。しかし読み返すと、おそらく対角に座る男が『窓ガラスに顔を押しつけてのぞいて見ても、時たま沖の漁船の舷燈が遠くポッツリと浮かんでいるほかには、まったくなんの光もなかった。』という。画としては海があったほうが様になるが、押絵の男側の窓からは海を消す。読み返すんじゃなかった。イメージなんだから、些細なことはどうでも良いといいながら、気になることは気になる律儀な私である。しかし、どうせだったら押絵となってしまった兄に、夕焼けの海を見せてあげたいものではないだろうか。

P74


6某日11 アナモレンズ

撮影は終了と思っていたが、もう1カット、話の流れ上どうしても欲しいという。私は被写体自体があまり魅かれるものではないのでトボケていたが、編集者とデザイナーが同意見といわれれば、すっかり任せているので撮らないわけにはいかない。 しかし、ただ撮る気にはなれないので、出番のなかったレンズを使うことにした。アナモレンズ(アナモフィックレンズ)と云う映画用レンズである。撮影レンズの前に装着して両サイドを圧縮して撮影し、映写時に再び装着して、両サイドを広げ、ワイド画面にするというレンズである。メーカーはKOWA。薬のコーワである。昔はスーパーワイドなどの個性的なカメラも作っていた。

※P75風呂敷に包まれた押絵額 明智と対決する、時計台の上の二十面相のマントに使用した風呂敷を再使用。