屋根裏の散歩者

04

6某日6 屋根裏の人間椅子

―そういえば作家シリーズを考えたとき、最初に浮かんだのが、あろうことか屋根裏に潜む乱歩であった。その後も何度か考えたが、数カットのため、人形や屋根裏のセットをつくるのが面倒で保留にしていたのである。随分前に図書館でコピーしてきた、屋根裏の構造図は何処にしまったろうか。


12某日5 やり直し
―本日より天井裏に潜む乱歩を造る事にする。始めに作家を造って写真を撮ろうと考えた時、間髪入れずに浮かんだのが天井裏の乱歩であった。『芋虫』も是非という意見があるがどうだろうか。やり方により見え方が違ってくる作品である。

※私の作品制作の趣旨とすれば、芋虫は乱歩で、ということにならざるをえず、やる気になれず。このあたりが単なる挿絵と違うところである。


12某日10 新築の屋根裏

来年一月、神田古書会館で催される、アンダーグラウンド・ブック・カフェ期間中の十六日、江戸川乱歩・小酒井不木往復書簡集『子不語の夢』(皓星社)出版記念トークショーがある。一日限りではあるが、新作の『屋根裏の散歩者』(乱歩)を出品する事になった。乱歩の人形といえば、黄金仮面を持った乱歩以外は撮影のため、正面しか造っていなかったりするので、人形を披露するのは二体目となる。展示には屋根裏に潜む乱歩という趣向を考えていて、屋根裏付きの展示になる。そうでもしないと、尻ッパショリの太鼓持ちが、お座敷で旦那に御機嫌伺いしているようにも見えるし、芸能人スポーツ大会にコロムビア・トップが出場し、クラウチングスタイルでスタートを待っているようにも見えるからである。 展示はともかく撮影では、屋根裏らしく蜘蛛の巣や埃とかで、おぞましくするのを楽しみにしていたのだが、考えてみたら散歩者が徘徊する建物は新築であり、埃が積もっていないので形跡が残らず、安心してうろつくという話しだと気付き、たった今ガッカリした所である。


05

1某日3 屋根裏部屋

ラジオで乱歩の『屋根裏の散歩者』の朗読を聴く。着彩を待つばかりの屋根裏の乱歩を眺めながら聴いてみたが、なかなかオツなものであった。人間の闇を描いた乱歩という話も出ていたが、いったい闇の無い人間などいるのだろうか。それじゃまるで幽霊じゃありませんかと、つげ義春風に云ってみたりして。 すっかり忘れていたが、岐阜県瑞浪市の陶器工場に勤めていた当時、私は屋根裏部屋に一年間住んだ事がある。一緒に勤める人と二人で一軒家に住んだのだが、一階の普通の部屋には目もくれず、私は迷わず屋根裏部屋を選んだ。梁に頭をぶつけたりしたが、実に楽しい経験であった。ただ冬の寒さは関東とは比較にならない厳しさで、コタツから目だけを出して、壁の隙間から降り募る雪を眺める寂しさは、オツを大分通り越していた。まさか時間がこんな速さで過ぎ行く物とは知らなかった私は、この先の道のりの永さを思ってコタツの中で溜息をついたものである。そんな季節には、夜は水道を出しっぱなしにしないと水道管が破裂するからと云われていたが、つい忘れて破裂させた事がある。応急処置には、水道管にジャガイモを詰めろと云われていた。


1某日6 モルヒネの小瓶

富岡八幡の骨董市に出かける。撮影に使う小物は、最近はネットで探す事もあるが、いざとなったら此処へくると何とかなる。今回は『屋根裏の散歩者』用の小さな薬壜である。作中では、茶色い小指の先ほどのビンで、コルクで栓がしてあるという事になっている。 二周りほどして一つ見つけた。小指の第一関節より少々大きいが、小指の先ほどとなると、撮影はともかく展示するには小さすぎる。ちょうどいい大きさであろう。コルクの栓は未開封のようで、白い粉末が入ったままである。品名の入ったラベルも付いていて、裏には薄ぼんやりと厚生省という文字の入ったラベル。 他にポストカード二枚とリリアン・ギッシュのブロマイドを入手。

P53


1某日8 合掌

―屋根裏の乱歩は、8年程前に作家を造ろうと思った時、最初に浮かんだポーズから何までそのままである。写る所だけ造ろうと思った場合、本当にそこだけしか造らない。ところが目測を誤り、ほんのちょっと屋根裏の材料が足りない。夜中にこんな事になると、私のイライラは最高潮に達する。木造家屋に住んでいたなら、壁や柱など剥がしかねないが、幸いコンビ二の割り箸で済んだのであった。


1某日10 屋根裏の散歩者

屋根裏で尻ハショリの乱歩。私はステテコを履いてもらうつもりでいたが、寒い時期に造ったせいであろう。いつの間にか、ラクダのモモヒキになってしまっていたのを、色を塗りながら気が付いた。明日は雪かもしれない。それもいいだろう。 撮影。天井下から光が洩れるよう、チンダル現象を起こす。といってもタバコの煙を吹きかけるだけだが。あまりやりすぎても埃っぽくなるだけなので適当にする。極太の梁は、かなりリアルに造ったのだが、ちょうど暗がりになり、よく見えず、ナタで削った痕まで出なかった。くたびれ儲けという奴だが、プリントではかすかに写っている。構想から8年。乱歩没後40年。屋根裏を散歩す。

P49〜51煙草の煙も思ったような効果が出ず、後に階下からの光を追加


1某日14 屋根裏が邪魔

先日撮影に使った屋根裏が邪魔である。撮影まであれだけワクワクして造っていたのに、撮影が終わると急に冷めてしまい、鬱陶しくなって背中を向けてタバコの一服もしたいという感じである。 もう1カットくらい撮影しようかとも思うが、終わったら使える木片だけを剥がして早く処分してしまいたい。しかし、個展のさいにでも出品したら面白がってもらえるかもしれない。いや、やはりそれまでとっておくのが面倒である。だいたい展示などしたら乱歩が潜んだ怪しい屋根裏が、購入したパソコンが入っていたダンボール箱だというのがバレてしまう。


2某日14 一日

先日、下町に残る土蔵内で撮影をしてきた。土蔵は火事の際は、空気口を土や味噌などで塞いで焼けるのを防ぐらしいが、その耐火性能はたいしたものである。そのせいか、乱歩邸だろうと、どこだろうと、土蔵は足下から冷え々としてくる。これで『屋根裏の散歩者』または土蔵が出てくる作品はだいぶ形になってきたようである。

P43、P55乱歩は後から合成、P56


3某日2 密偵より

―帰宅後『屋根裏の散歩者』を撮影。チャーリー・パーカーを流しっぱなしで乱歩を撮る。仮に宇宙人と戦争になり、どういうわけか音楽対決という事になったら、地球最強の武器はチャーリー・パーカーだと思う。