「石塚公昭 個展―ニジンスキー・コクトー・ディアギレフによる」
 
ロシアバレエのダンサー、ニジンスキーが、「牧神の午後」を踊る。しかも下半身
は山羊の足である。そして「薔薇の精」を踊る彼は、伝説的な跳躍を見せる。
空気は重たく肉体は軽いと神話化され、跳躍をすれば、二度と地上に戻らないの
ではと言われたダンサーである。そしてスーツ姿のジャン・コクトーが、トレードマ
ークの上着の袖をまくった姿で立っている。しかも自作の映画で有名な、黄泉の
国へと通じる鏡の中へと身体を半分忍び込ませている。ニジンスキー、コクトー・
ファンならずとも、誰しもが固唾を呑むシーンに違いない。
 澁澤龍彦、江戸川乱歩、稲垣足穂ら日本の作家シリーズを経て、石塚公昭は
今回の展覧会でコクトー、ニジンスキー、ディアギレフに挑んだ。まず彼らの写真
資料を集め、彼らに関する文献を渉猟し、自分の中に醸成された観念を視覚化す
る。粘土で人形を創る。この段になると、彼はもはや写真を参照しない。背景とな
るシテュエーションを創り、人形と一緒に写真撮影をする。それをオイルプリントと
いう独特な技法で、絵画のようにたった一点だけの作品が出来上がる。
 彼は決して存在しなかった場面を創り出す。しかもニジンスキーらの芸術世界と
彼の感性がぶつかり合い、融合したその結節点が作品となって結晶化するので
ある。だから、彼の作品はまったくのオリジナルなイメージである。もし私たちがな
るほどと思うなら、私たちが抱く観念的イメージを、彼が見事に共有できたからに他
ならない。
 掲載写真の作品では、ニジンスキーの人形を背景の黒い紙に浮かせて固定し、
紙で作った月を貼りつけ、実際に薔薇の花を散らして撮影したものである。最終的
には写真という一枚の平面作品であるが、微妙なニュアンスに富み、想像力に溢
れている。これこそ長いこと待ち望んでいたイメージだと、即座に思った。石塚公昭
の芸術は、伝説を現実と化す魔法のようである。
(中村隆夫=美術評論家)